マルチメディアコンテンツの配信、コンピュータ会議システムやインターネット電話など実時間アプリケーションがすでにインターネットで利用されているが、その品質が問題になっている。ユーザに対する通信品質保証を実現するためには、単にネットワークやエンドシステムを別個に考えるのではなく、それらを統合したQoSアーキテクチャが必要となる。本研究テーマでは、そのような考え方に基づきつつ、マルチメディアネットワークにおける通信品質保証の実現方法に関してさまざまな角度から検討を加え、QoSアーキテクチャのありうべき姿を探っている。本研究テーマでは、現在、以下の問題に取り組んでいる。
アプリケーションやユーザからの遅延/画質に関する要求品質を満たしつつ動画像データを効率的に転送するためには、ネットワークのサービス品質に応じて適切な動画像符号化方式を選択し、符号化パラメータを設定することが必要である。そこで、本研究では、動画像の符号化圧縮アルゴリズムとして広く用いられているMPEG-2符号化方式を対象に、利用可能な帯域に応じて符号化レートを制御するCBR符号化手法、レート変動は大きいが画質変動の小さい動画像が得られるVBR符号化手法、およびピクチャタイプに依存した符号化化を行なわないイントラスライス符号化手法について、動画像トラヒック特性と動画像品質、送受信エンドシステム間遅延に関する比較評価を行なった(論文[1])。シミュレーションによる評価により、限られた帯域において動画像品質や遅延に関するアプリケーションレベルの要求品質を考慮した動画像転送を行なうためにはVBRイントラスライス符号化手法が有効であることを明らかにした。さらに、量子化スケールを調整することによりその効果を高める手法を提案し、その有効性を示した。
Naoki Wakamiya, Masayuki Murata and Hideo Miyahara, "On video coding algorithms with application level QoS guarantees," to appear in Computer Communication Journal , January 1999. [PDF]
これまで、ATM網における動画像転送に関してはさまざまな検討がなされてきた。多くの検討においては、動画像トラヒックのバースト性に着目した統計多重を導入することにより、網資源の有効利用が図れることが示されている。しかしながら、高い統計多重化効果を得るためには網、送信側端末の双方で複雑なトラヒック制御を行なう必要があるという問題が残されている。そこで、論文[2]では、ATM網で提供されるCBR、VBRの両サービスクラスを対象に、動画像トラヒックの多重化効果について検討した。論文ではCBRサービスクラスの送信側端末内にトラヒック平滑化のためのバッファを設けることにより、サービスクラス間の公平な比較を行なっている。シミュレーションの結果、VBRサービスクラスにおける統計多重制御の複雑さに対し、得られる多重化効果はそれほど高くないことを明らかにした。
Naoki Wakamiya, Masayuki Murata and Hideo Miyahara, "Comparison of VBR and CBR service classes for MPEG-2 video multiplexing - Is statistical multiplexing really useful for bursty video transmission? -," to appear in International Journal of Communication Systems , October 1999. [PDF]
ネットワークを介して接続された端末間の動画像転送において、低遅延かつ高品質な動画像転送を実現するためには、ネットワーク資源に加えてエンドシステムのCPU資源についても考慮しなければならない。例えば、動画像の実時間転送を行うためには、符号化データの転送に必要なネットワーク資源、およびエンドシステムにおいて符号/復号化を実時間処理するためのCPU資源をあらかじめ確保する必要がある。そこで論文[3]では、動画像転送に必要となる帯域およびエンドシステムのCPU資源量の予測手法について検討を行った。得られた予測手法を用いることにより、動画像転送を行う際に必要となる資源量を容易に予測することが可能となる。また、ネットワークの帯域およびエンドシステムのCPU資源について、利用可能な資源量とその相関を考慮し、資源の利用効率を高めつつ、高品質な動画像転送を実現するためのQoS制御方式を提案した。この制御方式を用いることで、得られる資源の範囲内で動画像品質を最大化する符号化パラメータの決定が可能となる。 さらに、論文[4, 5, 6]では、まず、動画像品質とネットワーク及びエンドシステムで必要となる資源量の関係を明らかにした。その結果、ネットワーク資源に余裕がある場合には、より大きな帯域を割り当てれば、サーバやクライアントで帯域削減のための複雑な符号/復号化が不要となり、確保しなければならないCPU資源量を減らすことができ、逆に、エンドシステムのCPU資源を利用して動画像符号化の圧縮率を高めることにより、必要となる帯域を抑えることが可能であることが明らかとなった。論文では、これらの相関関係を利用し、ネットワークおよびエンドシステムで利用可能な資源量に基づいて、ユーザ効用の総和を最大化する資源割当制御の提案を行なった。提案方式では、ユーザの効用はユーザが割り当てられた資源から得る効用と資源に対して支払うコストの関係によって表される。このような資源割当制御を最適化問題として定式化することにより、クライアント数や利用可能な資源量に関わらず最適な資源割当を容易に決定可能にした。 また、論文[7]では、上記の資源割当制御方式に基づいた動画像転送システムを、資源予約型のネットワークおよびOSを用いて実装し、その有効性を検証する。エンドシステムにおいては、CPU資源予約を実現する制御方式としてアイソクロナス・スケジューラを用いたリアルタイムOS HiTactixを用いる。また、Ethernet上での帯域予約を実現するTTCP/ITM方式によりネットワーク資源の管理を行う。提案方式によって決定された各ユーザへの資源割当は、これらの制御方式を用いることにより実現される。提案方式を用いた資源割当制御を行うことにより、提案方式を用いない場合と比較して、システムの環境に応じて効率良い資源割当を実現し、高品質な動画像をユーザに提供できることを示している。
Kentarou Fukuda, Naoki Wakamiya, Masayuki Murata and Hideo Miyahara, "QoS guarantees based on end-to-end resource reservation for real-time video communications," Proceedings of 16th International Teletraffic Congress , pp.857-866, June 1999. [PDF]
福田 健太郎, 若宮 直紀, 村田 正幸, 宮原 秀夫, "ユーザ効用最大化を目的とした動画像通信のための資源割当制御," 電子情報通信学会 技術研究報告(SSE99-15), pp.19-24, May 1999. [PDF]
Kentarou Fukuda and Naoki Wakamiya and Masayuki Murata and Hideo Miyahara, "Integrated resource allocation for real-time video transfer to maximize user's utility," submitted to IEEE Journal on Selected Areas in Communications , October 1999. [PDF]
Kentarou Fukuda, "Integrated QoS control mechanisms for real-time multimedia systems in reservation-based networks," Ph. D Thesis, Osaka University, March 2000. [PDF]
山下 岳人, "動画像通信におけるユーザ効用最大化を実現する統合化資源割当制御の実装と評価," 大阪大学基礎工学部情報科学科 特別研究報告, February 2000. [PDF]
通信品質保証のないインターネットにおいては、高品質な通信を求めるデータ系アプリケーションはTCPを、高速な通信を求める実時間型アプリケーションはUDPをそれぞれ利用するため、ネットワークにはTCP、UDPの異なるプロトコルが存在している。そのようなネットワークにおいては、動画像通信に代表されるマルチメディアアプリケーションの生成する大量のトラヒックがUDPによりなんの制御も行なわれないまま転送されるため、輻輳制御を行なうTCPの使用帯域を圧迫し極端な品質劣化を招く。そこで、本研究ではTCPと公平な動画像転送を実現するため、TCP-friendlyの概念を導入したレート制御を対象に、動画像転送への適用可能性や効果的な制御手法について検討した(論文[8]、[9]、[10])。動画像の品質を保ちつつ、TCPと公平な通信を実現するレート制御を行なうためには、(1) 制御間隔を適切に設定し、(2) ネットワークの状態を推測し、(3) TCPのスループットを推定し、(4) 動画像データの生成レートを調整しなければならない。シミュレーションによる評価により、動画像をRTTの約32倍の制御間隔でTCPの推定レートにあわせてMPEG-2イントラスライス符号化して送出すれば、TCPとの公平性を実現しつつ、高品質な動画像転送が可能であることを明らかにした。論文[11]では「TCP-friendly」の概念に基づく動画像通信のためのレート制御方式を実装し、受信側エンドシステムにおける動画像品質評価や通信状態の観測を通して実システムへの適用可能性について検討した。その結果、制御間隔としてRTTの約32倍を、また動画像データ送出レートの設定手法としてTCPのウィンドウ制御をレート制御に置き換えたものを用いれば、TCPと公平かつ高品質で安定した動画像通信が行えることを明らかになった。 さらに、論文[12]では、公平性を「non-TCPコネクションの得るスループットが同一パス上のTCPコネクションと同じであること」と定義した従来のレート制御と異なり、提案手法では受信側エンドシステムで再生される動画像の品質やファイルの転送遅延といったアプリケーションレベルのQoS (Quality of Service)を考慮した公平な通信を可能にした。シミュレーションによる評価の結果、提案手法を用いることによりさまざまな負荷状態においてQoSに関してTCPと公平な動画像転送が可能となることを示した。
若宮 直紀, 村田 正幸, 宮原 秀夫, "TCPとの公平性を考慮した動画像転送," 電子情報通信学会 技術研究報告(SSE99-100), pp.79-84, November 1999. [PDF]
Naoki Wakamiya, Masayuki Murata and Hideo Miyahara, "On TCP-friendly video transfer with consideration on application-level QoS," submitted to IEEE International Conference of Multimedia & EXPO , November 1999. [PDF]
Naoki Wakamiya, Masayuki Murata and Hideo Miyahara, "On TCP-friendly video transfer," submitted to Eighth International Workshop on Quality of Service (IWQoS 2000) , February 2000. [PDF]
宮林 正樹, "TCPデータ通信との公平性を考慮した輻輳適応型レート制御による動画像通信の実装, 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2000. [PDF]
若宮 直紀, 村田 正幸, 宮原 秀夫, "アプリケーションレベルのQoSを考慮したTCPと公平な動画像通信," 電子情報通信学会 技術研究報告(CQ99-61), pp.37-42, December 1999. [PDF]
アクティブネットワークの概念を適用した、動画像マルチキャスト方式を提案している。ユーザからのさまざまな要求品質を満たすネットワークを構築するには、動画像フィルタリングによるトランスコーディングが有効である。それを実現するには、フィルタリングを行うアクティブノードをネットワーク上に配置し、ユーザの要求品質を満たしながらマルチキャストツリーを構築する必要がある。本研究では、そのような観点から、アクティブネットワークにおいてアクティブノードに対してトランスコーディングを分配しつつ、マルチキャストツリーを構築できるような方法を探っている。
従来、インターネットではスループットなどの通信品質を保証しないベストエフォート型サービスのみが提供されてきた。しかし、実時間転送に対する要求が高まり、そのためにネットワーク資源を予約することによって通信品質を保証する資源予約型サービスについても検討されるようになっている。しかしながら、資源予約型サービスに関しては、スケーラビリティの問題も指摘されている。そこで、本研究テーマでは(論文[13]、[14]、[15]、[16]、[17])、実時間アプリケーションと従来のデータ系アプリケーションそれぞれユーザが使用した場合の通信品質の評価尺度としてユーザ効用を導入し、2つのサービスモデルにおけるユーザ効用を示し、比較評価を行っている。その結果、回線容量が十分にあればベストエフォート型サービスでも十分な効用が得られること、ただし、そのためには適切なネットワーク設計によって十分な回線が準備できること、そうでない場合には予約型サービスが必須であることなどを定量的に示した。 現在、ISP(インターネットサービスプロバイダ)で広く用いられている料金制度は、ISPへの接続時間を基準にしたものである。しかしながら、接続時間は実際のネットワーク資源の使用量を表すものではない。また、近年、インターネットにおける音声や動画像などの実時間アプリケーションの開発も盛んであるが、実時間通信が広く利用されるようになると、現在の料金制度のもとでは、ユーザ間の公平性が保たれない可能性がある。実時間通信のサポートのために、ネットワーク資源を予約することによって通信品質を保証する資源予約型サービスも検討されるようになっているが、帯域予約に必要なコストを含めた評価は十分になされていない。そこで、論文[18]、[19]では、ユーザ効用を通信品質とコストによって定義し、現状の料金制度におけるユーザ効用を明らかにし、また、実時間通信アプリケーションと従来のデータ通信アプリケーションがネットワーク資源を共有している場合におけるユーザ効用を調べることによって、料金制度を含めたネットワークサービスの比較評価を行っている。 その結果、現在広く使用されているベストエフォートトラヒックにおける接続時間を基にした料金制度では、ユーザが使用するネットワーク資源に対応した料金制度とは言えず、その結果、今後、実時間トラヒックの割合が増加した場合、十分な回線容量を得ることができなければ、その場合は予約型サービスが必要であることを明らかにした。
Akira Watanabe, Masayuki Murata and Hideo Miyahara, "Which provides better utility to users, best-effort service or reservation-based service?," in Proceedings of ITCS-CSCC , (Sado), pp.1190-1193, July 1999. [PDF]
Akira Watanabe, Tetsuya Takine, Masayuki Murata and Hideo Miyahara, "Comparisons of QoS from user's perspective; which provides better utility to users, best-effort or reservation-based services?," in Proceedings of APCC/OECC , (Beijing), pp.1170-1175, October 1999. [PDF]
渡辺啓, 滝根哲哉, 村田正幸, 宮原秀夫, "ベストエフォート型サービス/資源予約型サービスにおけるユーザ効用の比較," 電子情報通信学会論文誌(掲載予定), February 2000. [PDF]
Akira Watanabe, Tetsuya Takine, Masayuki Murata and Hideo Miyahara, "Which provides better utility to users, best-effort or reservation-based services?," submitted to IEEE Journal on Selected Areas in Communications , October 1999. [PDF]
渡辺啓, "資源予約型サービス/ベストエフォート型サービスにおけるユーザ効用の比較," 大阪大学大学院基礎工学研究科修士学位論文, February 2000. [PDF]
渡辺啓, 村田正幸, 宮原秀夫, "ユーザ効用によるネットワークサービスの比較評価," 電子情報通信学会 交換システム研究会(発表予定), March 2000. [PDF]
渡辺啓, 村田正幸, 宮原秀夫, "ユーザ効用によるネットワークサービスの比較評価," 電子情報通信学会論文誌(投稿中, March 2000. [PDF]