高速パケットスイッチング・ルーティングアーキテクチャに関する研究

ネットワークにおけるボトルネックはルータにも存在する。特にネットワーク回線の高速化に伴い、ルータにおける処理ボトルネックが緊急を要する解決課題のひとつになっている。一方で、ネットワークサービスの多様化に伴って、単純なパケットフォワーディングの高速化にとどまらず、多種多様なサービスを考慮したパケット処理がルータに要求されるようになっている。本研究テーマでは、サービスの多様化に追随しうる高速パケットスイッチングアーキテクチャに関する研究に取り組んでいる。また、IPv6エニーキャストを対象としたルーティング技術に関する研究にも取り組んでいる。

IPルーティングテーブル検索の高速化のための効率的なキャッシュ構成手法に関する研究

インターネット上ではさまざまなアプリケーションが登場し、通信回線を共有している。多様なアプリケーショントラヒックが混在するネットワークにおいて、ユーザの要求に応じた品質を提供するためには、単にパケットを転送するだけでなく、公平性やトラヒック特性を考慮した制御が不可欠である。このような背景から、IPルータおいてもポリシーサービスに対する要求が高まっている。本研究では、高速IPルータにおいてポリシーサービスの提供に必要不可欠な、フロー識別を実現するために、一般的に入手可能なCPUおよびメモリを用いた検索アルゴリズムを提案した。また、アルゴリズムを実現するサイクル数やメモリアクセス時間等を考慮したパケット処理能力の導出を行い、メモリ利用効率の改善について検討した。さらに、シミュレーションによってキャッシュメモリのパラメータによる効果を明らかにした。

[関連発表論文]

IPルータにおけるアドレス検索アルゴリズムの高速化手法に関する研究(NTTネットワークサービスシステム研究所との共同研究)

インターネットトラヒックの急速な伸びにより、より高速なデータ転送技術が要求されている。ネットワーク全体の性能向上を考えた場合、回線容量を増やすだけでなく、ルータ、特にアドレス検索処理の高速化が必須である。近年、従来の検索手法に替わる新しい高速検索アルゴリズムが提案されているが、しかし、それらの性能予測に関しては、実トラヒックの特性に関して十分な分析がなされていないため、非常に限られた条件下の性能のみが示されている。ルータ、特にフロー特性による影響を受けやすいレイヤ3やレイヤ4スイッチの場合、現実的な性能を予測するためには、実際のトラヒックについて考慮する必要がある。そこで本研究では、インターネットトラヒックの統計的分析にもとづくアドレス検索アルゴリズムの性能予測手法を提案した。提案手法を既存のアドレス検索アルゴリズムの性能評価に適用し、シミュレーションを行うことによって、より正確な性能予測が可能となった。

[関連発表論文]

IPv6 ネットワークにおけるエニーキャスト通信実現のためのプロトコル設計と実装

インターネットの普及によって、インターネット接続端末数は爆発的に増加し、その結果既存のIPv4 のアドレスでは、すべての端末に IP アドレスを設定できないという、アドレス枯渇問題が現実となりつつある。この問題を解決する次世代の IPv6 について、現在標準化が活発になされている。IPv6 は、IPv4 のアドレス枯渇問題を解決するだけでなく、IPv4 では存在しない新しい機能についても多く提案および標準化が行われている。しかしながら、これらの機能を実現するためには、数多くの解決すべき技術課題が存在する。本研究テーマでは、IPv6 ネットワークを実現するために必要とされるこれらの技術課題について取り組み、解決法を示すことを目標としている。本年は特に、IPv6 の新しい機能のひとつであるエニーキャストルーティングを対象として研究を行った。エニーキャストアドレスとは、複数の端末に対して同一のアドレスを割り当てる技術であり、クライアント側は複数存在する同一アドレスのサーバから、適切なサーバに対して通信することが可能となる。しかし、エニーキャストアドレスは、その実装、実現方法について解決すべき問題が存在する。そこで本研究では、エニーキャストアドレスを利用する場合の制限事項を明らかにし、その解決のための手法を提案した。また、提案手法を端末に実装し、既存のアプリケーションがプログラムを変更することなく、エニーキャストアドレスを利用できることを示した。さらに、エニーキャストアドレスの経路制御について述べ、エニーキャストアドレスを用いた新たなサーバ負荷分散モデルを示し、実装評価によってその有効性を明らかにしている。

[関連発表論文]