これまで、無線ネットワーク技術と有線ネットワーク技術はおのおの独自の発展を遂げてきた。しかし、近年の無線技術の進展に伴って、無線ネットワークをラストホップとして、無線/有線ネットワークをいかにシームレスに統合するかが重要な課題になっている。本研究テーマでは、無線/有線を統合したシームレス通信を実現するためのネットワーク設計論に主眼においた研究を進めている。また、インターネットの発展に伴って、無線ネットワークにおけるデータ通信の実現方式もさらなる検討が必要になっている。本研究テーマでは、これらの点に着目した研究を進めている。
端末の移動によって、ネットワークの輻輳とは無関係に発生するパケット廃棄のために、TCPの性能が劣化することが知られている。論文[1]、[2]では、このような問題を解決するための基地局におけるバッファリング方式を提案している。まず、シミュレーションにより、バッファリングを行なわない場合のTCPの性能を明らかにした。その結果、Mobile IPの標準であるスムーズハンドオフは、廃棄されるパケットを減らすことを目指しているにもかかわらす、TCPの性能劣化を防げないことを明らかにした。さらに、経路最適化の拡張によって元のMobile IPよりも性能が悪くなる場合も示された。つまり、パケットの再送によってトランスポート層に対してハンドオフを隠蔽するようなバッファリングを支援する経路最適化でない限り、スムーズハンドオフはTCPにとって効果がないことを示している。さらに、パケットのバッファリングがTCPに対して与える影響を調べ、わずかな変更で基地局でのパケットのバッファリングを支援するために経路最適化の変更を行なった。最後に、ハンドオフ時の廃棄パケットの回復における問題点について議論を行ない、その解決法を提案した。
Doo-Seop Eom, Masashi Sugano, Masayuki Murata and Hideo Miyahara, "Performance improvement by packet buffering in mobile IP based networks," submitted to IEICE Transactions on Communication , June 1999. [PDF]
Doo-Seop Eom, Masashi Sugano, Masayuki Murata and Hideo Miyahara, "Improving TCP performance by packet buffering in mobile IP based networks," submitted to IEEE Journal on Selected Areas in Communications , April 1999. [PDF]
無線セルラー網では、ユーザの移動を支援するために、位置登録やハンドオフなどの特有の制御信号が負荷に占める割合が大きい。また、制御信号の種類によって、許容される最大遅延も異なっている。論文[3]では、無線回線での伝送遅延と有線部分における処理遅延を統合することで、無線セルラー網の制御パケットの遅延を評価する解析モデルを提案した。また、数値例によって、優先処理を行なうことで、ハンドオフ制御パケットの遅延を抑える効果があることを示した。さらに、位置登録エリア内のセルの位置による遅延の差や、セル内の端末数が遅延に与える影響も明らかにした。
菅野 正嗣, 村田 正幸, 宮原 秀夫, "ソフトハンドオフの影響を考慮したCDMA移動セルラー網の評価," 電子情報通信学会 技術研究報告(SSE99-37), RCS99-61, pp.43-48, July 1999. [PDF]
CDMA方式によるワイヤレスセルラー網では、ソフトハンドオフを導入することにより無線回線上の伝送特性が向上し、システム全体の収容力が増加する。その一方で、ソフトハンドオフによって複数の基地局において有線回線が占有されることを考慮する必要がある。論文[4]では、ソフトハンドオフが、無線回線における伝送特性と、有線回線における性能基準に与える影響を統合的に評価するための手法を提案した。無線回線の特性としては干渉電力を評価対象とし、有線回線については呼損率とハンドオフ時の強制切断率を考えた。本稿では、ソフトハンドオフが可能な領域の大きさが、これらに与える影響を解析的に導出した。 さらに、論文[5]、[6]、[7]では、呼損率および強制切断率といった有線回線における性能と、無線回線の伝送品質としての劣化率に着目し、これらの性能を統合的に評価する手法を提案した。さらに、数値例を通じて、ソフトハンドオフ可能な領域の大きさが性能に与える影響を明らかにした。また、干渉電力を抑えるような呼設定制御によって、性能を向上させられることを示した。
菅野 正嗣, 村田 正幸, 宮原 秀夫, "ソフトハンドオフの影響を考慮したCDMA移動セルラー網の評価," 電子情報通信学会 技術研究報告(SSE99-37), RCS99-61, pp.43-48, July 1999. [PDF]
長手 厚史 , 菅野 正嗣 , 村田 正幸 , 宮原 秀夫, "CDMA移動セルラー網におけるソフトハンドオフの有線/無線統合評価," 電子情報通信学会 技術研究報告(CQ99-60), pp.31-36, December 1999. [PDF]
長手 厚史 , 菅野 正嗣 , 村田 正幸 , 宮原 秀夫, "CDMA移動セルラー網における有線/無線品質に対する3ウェイソフトハンドオフの影響," 電子情報通信学会 モバイルマルチメディア通信ワークショップ(発表予定), March 2000. [PDF]
Atsushi Nagate, Masashi Sugano, Masayuki Murata, Hideo Miyahara, "An integrated approach for performance modeling and evaluation of soft handoff in CDMA mobile cellular systems," submitted to VTC2000 Fall , February 2000. [PDF]
無線端末同士が有線回線を介さずに自律的にネットワークを構築し,通信を行なうことのできるアドホック無線ネットワークシステムのひとつとして,フレキシブル無線ネットワークがあり,その製品化も実現されている.フレキシブル無線ネットワークシステムでは,通信の信頼性を確保し,実用性の向上を図るために独自の通信プロトコルを実装しているが,システムの動作を定めるパラメータ値や性能向上手法など改良の余地は大きい.そこで論文[8, 9]では,シミュレーションによりフレキシブル無線ネットワークに実装されているデータリンクプロトコルおよびルーティングプロトコルに関する性能評価を行なった.まず,システムの動作を定めるパラメータ値が,スループットや平均パケット遅延などの基本性能特性に与える影響を明らかにした.また,実際に運用されているシステムの例として,スキー場における データ収集システムを取り上げ,基本性能特性やネットワーク構成を定めるパラメータなどの評価を行った.さらに,さまざまなネットワーク構成がどのように性能に影響を与えるかを明らかにし,性能を向上させるためのノードの配置方法を示した.