フォトニックグリッドアーキテクチャに関する研究

λコンピューティング環境における分散計算のためのメモリアクセス手法に関する研究

WDM技術を基盤としてインターネットの高速化を図る、いわゆるIP over WDMネットワークの研究開発が、現在さかんに進められている。また、それを一歩進めてWDM技術以外のさまざまなフォトニック技術を下位レイヤの通信技術としたGMPLSと呼ばれるインターネットのルーティング技術の標準化もIETFで進められている。さらに、フォトニックネットワークの真のIP化を狙って、フォトニック技術に基づいたフォトニックパケットスイッチに関する研究も始められつつある。しかしながら、これらの諸技術は現在のインターネット技術を是としている。すなわち、情報を扱う細粒度としてIPパケットを扱い、ネットワーク上でそれをいかに高速に運ぶかを研究開発の目標としている。そのため、パケット交換技術に基づいたアーキテクチャをとる限り、個々のコネクションに対する高品質通信の実現は非常に難しい。

SANやグリッド計算など新しい応用技術では、高速かつ、高信頼な通信パイプをエンドユーザに提供する必要があり、そのためには、エンドユーザ間に大容量波長パスを設定し、ユーザに提供することが考えられる。すなわち、既設のファイバを利用し、あるいは必要に応じて、ファイバを新たに敷設し、ファイバおよびファイバ内に多重化された波長を最小粒度として情報の交換を行うフォトニックネットワークを構築することによって、超高速かつ高品質な通信パイプをエンドユーザに提供することが可能である。そこで、分散計算を可能とするλコンピューティング環境を提案している。ネットワークノードや計算機群を光ファイバで接続したネットワーク上に仮想チャネルをメッシュ状に張ることにより、高速チャネル上での分散計算が可能になる。さらには、仮想リングを構成し、リング上にデータを載せることによって、波長を仮想的な共有メモリとすることも可能である。その結果、広域分散システムにおける共有メモリと通信チャネルの区別の必要がなくなり、コンピュータ間の高速なデータ交換が可能になると考えられる。

本研究では、分散計算を行う場合に、これらの技術のうちの一つである、各ノード計算機上に存在する共有メモリを高速にアクセスする手法を実装し、その性能を明らかにする。具体的には、日本電信電話株式会社フォトニクス研究所が開発している「情報共有ネットワークシステム(AWG-STAR)」を用いる。このシステムでは、各ノード計算機が波長可変光源を通じて光ファイバによりアレイ導波路回折格子 (AWG)と呼ばれるルータに接続され、物理的にはスタートポロジを、論理的にはリングトポロジを形成している。また、各ノード計算機は、共有メモリボードを塔載しており、共有メモリボード上のメモリは、AWG-STAR上でリングネットワークを構成している全ノード計算機で同一のデータを保持している。すなわち、このシステムはAWGルータと波長可変光源をベースとした動的な波長ルーティングを使用し、複数端末ノード計算機の共有メモリを共有する、多対多マルチキャストシステムである。

本研究では、AWG-STARを用いた実験システム上で、実際のアプリケーションを動作させることにより共有メモリのアクセス手法の性能を明らかにしている。アプリケーションとして、分散計算のベンチマークとして利用されるSPLASH2を用いた。MPIを用いた従来のTCP/IPによる結果と比較することにより、共有メモリシステムおよびそのメモリアクセス手法の評価を行った。その結果、AWG-STARによる分散計算は、共有メモリへの書き込み回数に大きく依存し、現状ではボトルネックとなっていることがわかった。そこで、効率よく共有メモリへの書き込みを行うことでAWG-STARの性能を向上させることが可能であることを示した。

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