2013年度 研究成果報告書

Advanced Network Architecture Research Group

6. 次世代高速トランスポートプロトコルに関する研究

エンドホスト間でデータを高速に,かつ効率よく転送するための中心技術がトランスポートプロトコルである.特にインターネットで用いられているTCPでは,エンドホストがネットワークの輻輳状態を自律的に検知して転送率を決定している.これは,インターネットの基本思想であるEnd-to-end principleの核になっているものであるが,エンドホストの高速化により,その適応性をより高度なものにできる可能性が十分にある.本研究テーマでは,そのようなトランスポートプロトコルそのものに関する研究,および,そのようなトランスポートプロトコルを用いるアプリケーションシステムの性能向上に関する研究に取り組んでいる.


6.1 TCPの特性に基づくネットワークの性能評価手法に関する研究

6.1.1 TCPの動作を考慮した無線LANの消費電力低減に関する研究

 IEEE 802.11無線LANにおいては,無線通信が消費する電力が全体の10%から50%を占めることが報告されており,無線通信の消費電力を削減することが機器全体の消費電力を削減するうえで重要である.無線LANにおける省電力化に関する検討は,主にハードウェアレベルおよびMACプロトコルレベルの双方から行われている.一般に,ネットワーク機器の省電力に関して議論を行う場合においては,省電力効果とネットワーク性能間のトレードオフを考慮する必要がある.すなわち,消費電力の削減に効果のある要因を明らかにし,その要因がどの程度ネットワーク性能を低下させるかを知ることが重要である.しかし,TCPなどのトランスポート層プロトコルの挙動が省電力性能に与える影響を考慮したデータ転送手法に関する研究はほとんど行われていない.

そこで本研究では,無線LAN 環境におけるTCPデータ転送の省電力化を行うためにSCTPトンネリングを提案した.SCTPトンネリングは,複数のTCPフローを無線端末とアクセスポイント間に確立した1本のSCTPアソシエーションに集約する.そして,SCTPトンネリングは集約されたTCPフローのパケットをバースト的に転送することによって状態遷移回数を削減し,スリープによる省電力効果を高める.また,提案方式の省電力効果を評価するために,SCTPトンネリングの消費電力モデルを構築する.その消費電力モデルに基づいた消費電力解析により,提案方式が消費電力を最大70%程度削減できることを示した.また,実機実験によってもその有効性を検証し,標準化されている省電力手法を単独で用いた場合と同程度の省電力効果を保ちながら,ファイル転送時間を短く抑えることができることを示した.


[関連発表論文]
  • Masafumi Hashimoto, Go Hasegawa and Masayuki Murata, “SCTP tunneling: Flow aggregation and burst transmission to save energy for multiple TCP flows over a WLAN,” IEICE Transactions on Communications, vol. E96-B, pp. 2615-2624, October 2013.
  • 橋本 匡史, 長谷川 剛, 村田 正幸, “無線 LAN における省電力 TCP データ転送方式の実験評価,” 電子情報通信学会技術研究報告 (CQ2013-47), vol. 113, pp. 113-118, September 2013.