2017年度 研究成果報告書

Advanced Network Architecture Research Group

2. 次世代サービスネットワークアーキテクチャに関する研究
2.1. SDI仮想化基盤制御手法に関する研究
2.1.1. ポテンシャル場を用いた実世界表現に基づいたSDI仮想化基盤制御手法(富士通研究所との共同研究)

SDI (Software Defined Infrastructure) 環境では、物理的リソースであるコンピューティングリソースとネットワークリソースをスライス化して仮想ネットワークを構築し、その仮想ネットワークをユーザに提供する。SDI環境を実現する技術として、近年 SDN (Software-Defined Networks) と NFV (Network Function Virtualization) 技術が着目されている。市場導入に向けては、技術標準化が必須であり、現在も進められているところである。しかし、SDI環境の実現に向けたもう1つの課題は、ユーザの需要に応じて仮想ネットワークと物理的なリソースの割り当てを制御することである。特に最近は、センサーデバイスの小型化や低価格化とモバイルデバイスの普及にともない、現実世界の状況をセンシングして分析処理し新たなサービスを提供する実世界センシングが注目されており、ユーザの需要に応じて高速かつ柔軟にネットワークリソースを制御することが望まれる。

本研究では、SDI環境において、局所的なコンピューティングリソース量と、サービス提供にともなって必要となるネットワークリソース量を短周期で制御可能な動的リソース制御方式を提案している。動的リソース制御方式は、現実世界のセンサ情報量と現実世界の情報に対するユーザーアクセス量をポテンシャル場として表現し、ポテンシャルの値に応じたリソース量を配備するものである。計算機を用いた数値結果により、ユーザの移動に対応してポテンシャル場が形成されること、および、リソース制約を反映したポテンシャル場が形成されることを確認した。


現実世界の事象に基づいたポテンシャルの形成
ポテンシャル場の挙動の一例
[関連発表論文]
  • Koudai Kanda, Shin’ichi Arakawa, Satoshi Imai, Toru Katagiri, Motoyoshi Sekiya, and Masayuki Murata , “Dynamic resource control method based on real world representation with potential field,” in Proceedings of IEEE Consumer Communications & Networking Conference (IEEE CCNC 2018), pp. 374–379, (Las Vegas), January 12-15, 2018.
  • Onur Alparslan, Onur Gunes, Y. Sinan Hanay, Shin’ichi Arakawa, and Masayuki Murata, “Improving resiliency against DDoS attacks by SDN and multipath orchestration of VNF services,” in Proceedings of IEEE International Symposium on Local and Metropolitan Area Networks (LANMAN 2017), (Osaka), June 25-27, 2017.
2.1.2. 生物の進化適応性にもとづくSDI構成手法(脳情報融合研究センター (CiNet) との共同研究)

通信ネットワークへの接続者数の増加に伴い、通信サービスが多様かつ動的なものとなっている。この状況に対処する方策として、ネットワーク機能の構成を動的に変更可能にする仮想化技術である Network Function Virtualization(NFV)技術が広く注目を集めている。ユーザの動的な処理要求変更に対応するためには、VNFをどのように配置するのかを、時々刻々と変化するネットワークに適応できるように、動的に解く必要がある。このような動的VNF配置問題においては、配置状態を各要求に対して適したものとすることに加え、処理要求変化後のVM再構成操作などの、動的配置に必要なコストを抑制する必要がある。本研究では生物進化の知見を利用することでこの問題を解決した。生物は、環境変動の中で進化する中で、各目標へ遺伝的に適応し、最終的に少しの構造変更で目標変動に適応できる構造を獲得する。本研究では環境変動に対する生物の進化適応の概念を導入した遺伝的アルゴリズムであるMVG を動的VNF 配置問題に応用した Evolvable VNF Placement(EvoVNFP)を提案した。提案手法では、既存の進化的アルゴリズムと比較して、短い計算時間によって解を得ることが可能であり、動的な要求変動にも追随して制御を行うことが可能であることを示した。


[関連発表論文]
  • Mari Otokura, Kenji Leibnitz, Yuki Koizumi, Daichi Kominami, Tetsuya Shimokawa, and Masayuki Murata, “Evolvable virtual network function placement method: Mechanism and performance evaluation,” submitted for publication, January 2018.
2.2. ネットワーク仮想化技術を用いたサービス構成技術に関する研究
2.2.1. ネットワーク仮想化技術を用いたサービス連携技術に関する研究(KDDI総合研究所との共同研究)

情報通信技術が社会に深く浸透し、あらゆる機器や人が情報ネットワークを構成する時代が到来しつつある。特に近年は、ネットワーク仮想化技術の進展を背景に、いくつかの(マイクロ)サービスネットワークを連携させ、新たなサービスを創発するネットワークシステムが注目されている。本稿では、複数のサービスネットワークがネットワークを介して相互に接続されるNetwork of Networks に着目し、トポロジー構造およびトラヒックフローの振る舞いの観点から相互に接続されたネットワークの性質を明らかにする。固有ベクトル中心性にもとづいてノードをCentral ノードとPeriphery ノードに分類し、これらのノードの接続組み合わせによる4つの相互接続ネットワークを生成し、ノード故障発生時のスループット性能の変化を調べた。その結果、ネットワークのコアとなるノード近隣の固有値ベクトル中心性が低いPeriphery ノード同士を接続することで、高い信頼性と効率性が得られることが明らかとなった。


[関連発表論文]
  • 荒川伸一, 荻野長生, 北原武, 長谷川剛, 村田正幸, “サービスネットワーク連携のための高信頼化ネットワーク基盤構築手法,” 電子情報通信学会技術研究報告(IN2017-17), vol. 117, pp. 55–60, June 2017.
2.2.2. 生化学反応式を用いた空間協調モデルに基づくサービス空間構築手法

Network Function Virtualization (NFV) やマッシュアップWebサービスなどのネットワークシステムにおいては、実行環境の構成要素である汎用サーバ上に複数のサービスや機能を配置し、実行する。その分散配置されたサーバに、どのサービスや機能を配置するか、及び配置された各サービスや機能にどう資源を割り当て実行するかを各サーバで自律的に決定することは、物理的に広い範囲のネットワーク環境や、サーバ障害や環境変動の発生時においても、システムの冗長性や成長性を保ちながらシステム全体を制御できる。また、遺伝子ネットワークや化学反応等の生化学における特性である自己組織性や堅牢性を情報ネットワークアーキテクチャへ応用する検討が活発に行われている。


本研究では、化学反応式を利用した空間拡散モデルに基づいて、上記のようなネットワークサービスにおいて、提供するサービスや機能を適切な場所で実行し,サーバ資源をそれらで効率よく共有する手法を提案している。提案手法では,提案システムにNFVを実現するために適用することを考え、NFVにおけるサービチェイニング、Virtualized Network Function (VNF)のサーバへの配置、フロー経路の決定などを行うための化学反応式を構築し、その有効性をコンピュータシミュレーションによって確認した。


また、提案システムをNetwork Function Virtualization (NFV)を実現するために適用することを考え、NFVにおけるサービチェイニング、Virtualized Network Function (VNF)のサーバへの配置、フロー経路の決定などを行うための化学反応式を構築し、その有効性を確認した。また、簡易なNFV環境を用いた実装実験により、提案システムが仮想化ネットワークシステムに求められる様々な機能を実現できることを確認した。


[関連発表論文]
  • Koki Sakata, “Adaptive and autonomous placement method of virtualized network functions based on biochemical reactions,” Master’s thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2018.
  • 杉田修斗, “生化学反応モデルに基づいた動的資源割り当て手法のNFVフレームワークにおける実験評価,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2018.
2.3. ネットワークサービスのエコシステム構築に関する研究
2.3.1. API エコノミーに関する研究(富士通研究所との共同研究)

ネットワークの高速化やクラウド技術の進展を背景に、ネットワークを利用する様々なアプリケーション・サービスが登場しており、最近では、企業等が抱える情報処理をAPI化やデータ提供そのものをAPI化し、APIを用いてサービスを連結し新たな価値を生み出すAPI Economyが注目されている。本研究では、APIの供給と消費の関係をマーケットとしてモデル化し、API提供者が成す利益競争下での社会的利益を明らかにする。2つのAPI利用シナリオに対して、ベルトラン競争、クルーノー競争、および、それらを組み合わせた競争戦略下での価格/供給量の均衡点を求め、数値例により社会的利益を拡大する競争戦略とパラメータ領域を明らかにした。また、API同士の補完性を表すパラメータ値が社会的利益の拡大に重要となることもわかった。


APIエコノミーの構成例 拡張マーケットモデル
[関連発表論文]
  • 荒川伸一, 今井悟史, 片桐徹, 関屋元義, 村田正幸, “マーケットモデルにもとづくAPI エコノミーの社会的厚生の分析,” 電子情報通信学会技術研究報告(発表予定), March 2018.
2.4. ユーザQoE (Quality of Experience) の向上に関する研究
2.4.1. ネットワーク仮想化技術を利用したサービス機能の再配置によるユーザ性能の向上手法【1.3.2.節再掲】

近年、IoT (Internet of Things)の進展を背景に数多くの新しいアプリケーションやサービスが登場し情報ネットワークは急激に変化している。新しいアプリケーションやサービスの例として、カメラやセンサなどを搭載したエンド端末において取得された情報を、別拠点のデータセンターで処理し、結果をエンド端末へ提示するサービスが考えられている。しかし、エンド端末とデータセンターが地理的に離れることや、大量のデータがデータセンターに集中することで、遅延が増大する。このような問題に対応すべく、ネットワークそのものに柔軟性を持たせる一つの方法としてネットワーク機能仮想化 (NFV: Network Functions Virtualization)が期待されている。さらには、ネットワーク機能だけではなくアプリケーション機能を仮想化してモバイルエッジに配置し、地理的な遅延の解消および負荷の分散によるアプリケーションやサービスに対する応答性向上を期待するエッジコンピューティング (EC: Edge Computing)の導入が進められている。エッジコンピューティングによって応答性向上が期待される一方で、仮想化環境でのソフトウェア動作による処理速度の低下が懸念される。そこで、本報告では、実機を用いたモバイルエッジコンピューティング環境を構築し、アプリケーションやサービスを柔軟に提供した際に生じるユーザの通信品質に与える効果を明らかにした。実機実験の結果、ネットワーク仮想化によるソフトウェア動作から生じる処理速度低下は、地理的な要因によって生じる遅延に比べ十分小さく、サービス機能を遠隔地からユーザに近い拠点に再配置することにより、通信遅延時間が最大でおよそ3割低減され、ユーザの通信品質が改善されることが明らかとなった。

また、最近では、仮想現実 (VR: Virtual Reality) 技術や 複合現実 (MR: Mixed Reality) 技術が発展し、これらの技術を用いて臨場感のある体験を提供するネットワークサービスが展開されつつある。しかし、仮想現実技術や複合現実技術を用いたネットワークサービスでは、ユーザが一方的に音声や映像などの体験を享受するサービスと比べて、ネットワークの遅延やパケットロスの増大に対するユーザ体感品質の変化が大きくなる可能性がある。そこで、仮想現実技術/複合現実技術とエッジコンピューティングを組み合わせたアプリケーションとして、局所的に取得される実世界の情報を局所的に統合・処理を行いつつ遠隔地のロボットへ情報伝達を行い、ユーザに対して新たな臨場体験を提供するアプリケーションを考案し、エッジコンピューティングの導入によるユーザの体感品質の向上性を検証した。検証の結果、遅延が720 [ms]から920 [ms]の間でユーザの体感品質が急激に悪化するため、クラウドコンピューティング環境で約1秒の遅延が発生するサービス環境では、エッジコンピューティングの導入によりユーザの体感品質が向上する見込みがあることが明らかとなった。


実験ネットワーク
作成したMRアプリケーション(ユーザ視点)
[関連発表論文]
  • 金田純一, 荒川伸一, 村田正幸, “エッジコンピューティング環境におけるサービス機能の配置がユーザの通信品質に与える効果の評価,” 電子情報通信学会技術研究報告, vol. 117, pp. 61–66, September 2017.
  • Junichi Kaneda, Shin'ichi Arakawa, and Masayuki Murata, “Effects of Service Function Relocation on Application-level Delay in Edge Computing,” submitted for publication, December 2017.
  • 高木詩織, “エッジコンピューティングを用いた複合現実型サービスにおけるユーザの体感品質の向上性に関する評価,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2018.
2.4.2. 曖昧な情報に対する脳の情報処理機構を応用した ユーザQoE 推定手法(NECシステムプラットフォーム研究所との共同研究)

あらゆる情報に通信ネットワークを介して享受できる時代が近づく中、ユーザやサービス提供者の求める様々な品質要求に対して、柔軟に対応できるネットワークの実現が望まれている。しかしながら、ネットワークの大規模化やアプリケーションの多様化によって、従来のようにネットワークから必要な情報を収集し、最適化を図る方法では対応が困難な状況が増加している。時々刻々と変化するネットワークの情報を取得し、その情報に基づいて最適な制御を決定して、ネットワークに与えるまでに、ネットワークの状況が変動している可能性が増すためである。そこで、ネットワークから観測した情報が、時空間的に不十分なものであったとしても、うまく対応できる制御手法が必要となる。本研究では不確かな観測情報に基づく脳内の情報認知を模したベイジアンアトラクターモデル、少ない情報を元に人の脳が適切な意思決定を行うスモールサンプルモデルを、動画像ストリーミングのレート制御手法に応用することでユーザQoE の向上やLPWAネットワークにおけるスループットの向上が可能であることを示した。


[関連発表論文]
  • Masayoshi Iwamoto, Tatsuya Otoshi, Daichi Kominami, and Masayuki Murata, “Flexible user model for human’s cognitive judgment in video streaming applications,” in Proceedings of The 6th Korea-Japan Joint Workshop on Complex Communication Sciences (KJCCS), (Jozankei, Japan), January 8-10, 2018.
  • 小南大智, 鈴木一哉, 長谷川洋平, 下西英之, 村田正幸, “脳の認知モデルを用いたLPWA ネットワークにおける無線チャネル割当手法,” 電子情報通信学会ネットワークシステム研究会(発表予定), April 2018.
2.4.3. 心理的効果を含めたユーザ行動のモデル化に関する研究

ネットワーク仮想化などユーザの需要に合わせて柔軟な制御が可能となり始めた今日では、ユーザが体感するサービス品質(QoE; Quality of Experience)を考慮した制御が望まれている。このようなユーザ QoEのモデル化に関する研究は、従来進められてきたものの、ユーザの心理的効果によってQoEに影響を及ぼすため、従来のモデルではモデル化が困難な状況が生じる。一方で、人の認知状態及び意思決定を表現するモデルとして、近年、量子意思決定が注目され始めており、これは、従来の認知モデルでは表現が困難な、人の心理的効果も含めたモデルとなっている。本研究では、量子意思決定に基づいて動画視聴時のユーザの画質選択行動のモデル化を行い、ユーザの画質嗜好を含めたモデルを提案した。


[関連発表論文]
  • 大歳達也, 村田正幸, “量子意思決定によるユーザの動画ストリーミング視聴時の画質選択のモデル化,” 電子情報通信学会技術研究報告, March 2018.