研究

1_bio

近年、生物の優れた機能や行動などに注目したバイオミメティクスに関する研究が多くなされています。 服や犬の毛に絡まっていた植物の構造からヒントを得て考えられたマジックテープや、衝撃に強い蜂の巣の形がサッカーゴールの網に使われたりなど身の回りにも生物から学んだものが多くあります。 情報通信分野においても、生物の振る舞いをネットワーク制御に応用した研究が数多くみられます。 現在、ネットワークの大規模化・複雑化が進んでいるため、ネットワーク全体の状況を把握し、適切な制御を行うことが困難になっています。 そこで鳥や魚の群れなどでみられる、群知能に着目しています。 群知能とは、個体の自律的な動作から生じる協調的な社会的行動であり、応用することで分散的・適応的なネットワーク制御が可能になると考えています。

また、村田研究室では生物同士のコミュニケーションに着目しています。具体的にはニホンアマガエルにみられる音声を用いたコミュニケーションを応用しようと考えており、 現在は数理モデル化を行うための音声コミュニケーションの解析を行っています。鳴き声から音源であるカエルの位置推定を行っており、 隠岐の島などのカエルが生息している実環境での実験も行っています。 筑波大学の合原先生との共同研究の成果である、カエルの合唱法則の研究と通信システムへの応用についての論文は、朝日新聞日経新聞読売新聞ITMedia NEWSTBSラジオなど様々なメディアで紹介されました。

また、多種多様なデバイスやセンサーから構成されるIoT (Internet of Things) ネットワークと 多数の個体から構成される生物の群れとの親和性に着目し、 鳥や魚の群れなどで見られる群知能の仕組みをネットワーク制御へ応用すことで、 生物の持つ拡張性や耐故障性、環境変動への適応性をネットワーク制御へ取り入れる研究にも取り組んでいます。 特に本研究では、リーダーを有する生物の群れの仕組みを応用し、 リーダーとなるノードがネットワーク全体を制御目標へ牽引することで、 より速く制御目標を達成するネットワーク制御についてシミュレーションを用いて研究しています。

2_brain

皆さんは人の脳が非常に良くできていることをご存知ですか? 人の脳のたった1秒の活動を再現するために、スーパーコンピュータ「京」を用いても計算に 40 分かかるという報告があるように、実は脳はとても複雑な処理を行っています。さらに、この複雑な処理をスーパーコンピュータより遥かに省エネルギーで実現しています。人の脳は神経細胞 (ニューロン) の繋がりでできており、構成されるネットワークは高い通信効率や頑健性を有すると期待されています。我々は、この脳ネットワークの特徴を、通信端末の繋がりで構成される情報ネットワークの構築に生かすことができると考えています。脳ネットワークの特徴を備えたネットワーク構造を構築する手法を提案することによって、コンピューティング資源の利用を効率化させたり、遅延時間や通信帯域、耐故障性といったネットワーク性能を向上させることを目指しています。

また、脳ネットワークだけではなく、人の脳の認知に着目した研究も行っています。人は、曖昧で不確かな情報から、状況に応じて最も確からしい意思決定を行うことができます。実際にこの認知のしくみを取り入れた研究の一例として、人の優れた認知機能を備えた動画プレーヤーが、通信状況に応じて適切な画質選択を自動で行うことによって、視聴者に対して体感品質の高いサービスを提供することを目的とした研究があります。この他にも、動画を視聴している人の脳波を計測することで、動画視聴に対する満足度合い(QoE)を推定する研究も実施しています。脳波の計測実験を通して、人の生体情報からQoEを推定する技術により、人の体感により即したネットワーク制御技術の実現を目指しています(実験についてはこちら (PDF))。 村田研究室ではこのように脳科学の知見を情報ネットワーク分野に生かす研究を行っています。

3_mr-edgecomputing

近年、ARやVRが流行っていますが、皆さんはMRという技術について聞いたことがありますか? MR は現実世界に仮想世界を重ねて新しい世界を表現する技術で、ユーザに臨場感のある体験を提供することができます。現状、MRを用いたサービスにはオフラインのものが多いですが、今後はネットワークに接続するものが数多く登場すると考えられます。MRような高画質かつリアルタイム性の要求されるサービスの増加が想定されるため、移動通信の次世代規格である5Gは「多接続」「高速・大容量」「低遅延」が特徴となります。これを可能にする技術の一つがエッジコンピューティングです。エッジコンピューティングは、クラウドコンピューティングに加わる形で導入が期待されている新たな情報処理形態です。エッジコンピューティングでは、携帯電話基地局などのユーザに近い場所にエッジサーバと呼ばれる新たな処理拠点を設け、そこで一部の処理を行います。それにより、従来型のクラウドコンピューティングで問題となる地理的要因により発生する遅延や負荷の集中を低減することができます。

村田研究室では、MRを利用した買い物体験サービスを実装しています。ネットワークに接続する MR アプリケーションの例として、MR ヘッドセットを装着したユーザが、遠隔地のショッピングモールに設置したロボットと映像のストリーミングやジェスチャーにより連携することで、実店舗に足を運ぶことなくショッピングモールでの買い物を体験できるサービスを実現することを目指しています。このようなサービスでは、ロボット視点での映像をリアルタイムで処理する必要があります。そこで、エッジコンピューティングを用いてアプリケーションの応答性を高め、ユーザの体感品質を向上させることを考えています。



5_beyond5g

皆さんは、CPS(Cyber Physical System)という言葉をご存知でしょうか。CPSとは仮想空間と実空間の融合により様々な社会課題を解決するシステムを指します。例えば、自動運転の分野では実空間の道路交通情報を車両群から収集し、仮想空間で解析、実空間の車両群へフィードバックすることで、交通流を最適化することや潜在的な危険を予測・警告することが考えられています。この際、実空間と仮想空間の橋渡し役となるのが4Gや5G等のモバイル通信システムです。既に4Gや5G 等のモバイル通信システムは、コネクティッドカーやドローン等のCPSを実現する技術分野において、実空間からのセンサー情報収集や仮想空間からのフィードバックの手段として用いられています。今後、CPSをさらに進展させるには、仮想空間と実空間のより早く細かな同期や高い信頼性を実現する情報通信基盤によるサポートが必要です。現在、その中核を担う次世代通信規格Beyond 5G/6Gに求められる要件が業界、学術組織で検討されています。Beyond 5G/6G時代の高度なCPSの実現には、5Gを用いた要素技術の研究による技術発展が必要不可欠です。

村田研究室ではBeyond 5G/6G時代のCPSを見据え、その要素技術である次世代コンピューティングに関する研究を行っています。研究の一例としては、「5Gを用いた自動車間の衝突予測・警告システム」の研究があります。自動車間の衝突予測・警告においては、時々刻々と変化する道路交通状況を正確に捉え潜在的な危険を回避するために、車両の位置速度情報の収集からフィードバックまでをリアルタイムに行う必要があります。ここで課題となるのが情報の伝送遅延や解析処理遅延の増加によるリアルタイム性の悪化です。本研究では、5Gやエッジコンピューティング技術を用いた自動車間衝突予測・警告システムのリアルタイム性向上に取り組んでいます。現在は第一段階として4Gを用いた衝突予測・警告システムを構築し、実験を行いました。実験では、Realtime Linux環境導入により仮想的な衝突予測処理要求に対する応答時間の最悪値を最大で30%削減可能であることを確認しています。今後、実機で構築した5Gやエッジコンピューティング環境を用いて仮想的な衝突予測要求に対する応答時間を計測し、その効果を統計的に解析し評価する予定です。

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「仮想化」という言葉を聞いたことがありますか? 知らない人も多いとは思いますが、仮想マシンと聞けばピンとくるのではないでしょうか。仮想マシンは、ソフトウェア化されたコンピュータを、物理的なコンピュータ上で動作させるものです。 仮想化とは、機能をソフトウェア化することであるとも言えます。近年、ネットワーク業界では、ネットワークを仮想化する動きが活発になっています。皆さんはインターネットを利用していると思いますが、その中でどのような処理が行われているかご存知ですか?皆さんが送信したデータは、ルータと呼ばれる機器で経路決定され、目的地に到着します。 また、データが通る経路上には、不正なデータを排除するファイアウォールやウイルスを検知するアンチウィルスなどのネットワーク機能を実行する機器が設置されており、 データはそれらの機器を通過して様々な処理を受けています。ネットワーク仮想化では、経路決定の機能とネットワーク機能をソフトウェア化します。 経路決定機能の仮想化をSDN(Software Defined Networking)、ネットワーク機能の仮想化をNFV(Network Function Virtualization)と呼びます。 さらに、もう1つ重要な要素があります。それはコントローラです。コントローラは、ソフトウェア化された経路決定機能やネットワーク機能を一元管理します。 ネットワーク仮想化およびSDN/NFVの技術開発が世界的に進んでおり、コントローラを用いてネットワークを状況に応じて動的かつ柔軟に制御することが可能となってきています。

我々は、ネットワーク仮想化技術のうち、特にコントローラでの制御アルゴリズムの考案に焦点を置き、日々研究を進めています。生物の“ゆらぎ”原理に着想を得た仮想ネットワークの制御や、ポテンシャル場を用いたネットワーク基盤の制御手法 (上図) などを検討しており、通信トラヒック変動や機器故障などの環境変動に追随できるネットワークの創出を目指しています。

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近年、私たちを取り巻く労働環境の改善に注目が集まっており、個人のワークライフバランスに寄り添った働き方が推奨されています。しかしながら、労働時間の短縮に伴い生産効率の向上が求められ、結果的に単位時間当たりで見れば労働者のストレスを高めてしまいます。そうすると、個人がストレスなく伸び伸びと過ごしている状態をかえって損ねてしまう可能性があります。

我々の研究グループでは、ゆらぎ学習に対してマルチモーダル統合処理を組み合わせた新たな手法を提案しており、これにより、個人差を捉えたストレスの推定が可能であることを確認しました。一般に、精神的に負荷のかかる状態においては、ある種の生体反応が現れることが知られており、生体情報から精神的な負荷状態を推定することが可能です。この手法をもとに、本研究ではウェアラブルセンサーによって個人から取得した生体情報に基づき、その人の心理的状態を推定し、その推定結果に応じて空調機器を制御して人が心地よく過ごすことのできる空間 (ウェルビーイング空間) を実現する研究を行っています。これまでに、部屋の温湿度に対するストレス/非ストレス状態を推定し、推定結果に基づき空調機器の制御をリアルタイムに行う手法、複数のアクチュエータにより個々人にとって快適な環境を実現する手法の提案と実装を行っています。

業績

村田研究室の研究内容に関するさらに詳しい情報は研究成果報告書でご覧いただけます。研究成果報告書は、村田研究室が年度別に研究成果をまとめ、業績として公開しているものです。当該年度における研究背景、研究テーマ、論文一覧、研究スタッフを記載しています。

最新版は2023年度研究成果です。ご高覧いただき、忌憚のないご意見をいただければ幸いです。