インターネットにおいて品質の高いサービスを提供するためには、ネットワーク特性を十分に把握した上で、それに基づいたアプリケーション制御、アプリケーションシステム設計が必要になる。特に、従来のネットワーク設計手法論が単一キャリアを前提にした、閉じたものであったのに対して、インターネットにおいてはオープンな環境における設計が必要になっている。本研究テーマでは、このような考察に基づいて研究テーマに取り組んでいる。
インターネットアプリケーションにおける重要な通信品質特性としてパケット転送遅延が挙げられる。実際に、TCPやストリーミングアプリケーションにおいて通信品質を考慮した転送を行うには、パケット転送遅延時間の予測が必要であり、特にパケットロスを検知するためには、遅延分布のすその部分の特性を明らかにすることが重要となる。本研究では、まず測定ツールを用いてパケット転送遅延を測定し確率分布関数による分布のモデル化を行った。統計分析においては、特に分布のすその部分に着目し、時間帯による遅延特性の変化や確率分布のパラメータ推定のモデル化における精度も明らかにし、その結果、パレート分布が遅延分布のモデルとして最適であることを示した。さらに、統計分析の結果をストリーミングアプリケーションに適用し、ユーザの要求する通信品質を実現できるプレイアウト制御アルゴリズムを提案した。また、数値結果により提案アルゴリズムの有効性を示している。
近年、ピア・ツー・ピア (P2P) モデルによる多くのサービスが提供されている。P2P では、サービスに参加するホストはピアと呼ばれ、ピアが相互に接続して論理ネットワークを形成する。サービスの問い合わせや応答は論理ネットワークを通じて行われるため、論理ネットワークが安定して構成されることが重要となる。しかし、ピア同士により構成されるネットワークでは、ピアの参加や離脱によってその安定性が大きく変化する。このため、P2P では論理ネットワークの安定したサービス提供を考えることが重要となる。このような論理ネットワークの安定性向上に対して、レプリケーションと呼ばれる手法が提案されている。しかし、本来レプリケーションの効果は論理ネットワークのトポロジーに大きく依存するが、そのようなトポロジーを考慮したレプリケーション手法は考えられていない。特に、インターネットや P2P 論理ネットワークのトポロジーは、これまでの研究によりべき乗則に依存することが明らかとなっており、レプリケーションにもこれらの影響を考慮する必要がある。
本研究では、論理ネットワークのトポロジー、特にべき乗則がレプリケーションに及ぼす影響をまず明らかにした。シミュレーションにより、隣接接続数の多いピアでは接続数の少ないピアの4倍の頻度でレプリカが作成され、さらに作成されたレプリカについては接続数の多いピアのレプリカが少ないピアの5倍の頻度で参照されていることが明らかとなった。これらの結果をもとに、べき乗則を考慮したレプリカ作成および検索を行う手法を新たに提案した。シミュレーションによる評価の結果、提案手法は従来手法の 60% の検索時間を実現し、検索性能を大幅に向上させることが分かった。