近年、リアルタイム性の高い処理の実行のために、ユーザにより近いエッジに配置可能な比較的小規模のデータセンターであるマイクロデータセンターが提案されている。マイクロデータセンターは、大規模なデータセンターと比べて保有する資源量は限られているため、無駄のない資源利用が重要となる。そこで、CPU やメモリ等の資源同士を独立させ、ネットワークでつないだリソース分離型マイクロデータセンターが提案されている。リソース分離型マイクロデータセンターでは、資源割り当てがアプリケーションの実行性能に大きな影響を持ち、割り当て方によって、十分な資源が存在する場合でもそれらをつなぐネットワーク資源が枯渇してしまう恐れがある。そこで、本研究では、各資源の重要性に基づいた割り当てコストをもとに資源を割り当てることで、将来のアプリケーションの収容に必要となる資源の利用を回避し、必要な時に必要な資源をアプリケーションに対して割り当てることを実現する手法について提案している。我々はシミュレーション評価により、提案した手法を用いることにより、短時間での処理を求められるようなアプリケーションに対しても適切な資源を割り当てることができることを示している。
エッジコンピューティングのユースの検討が国内外で進められている。その1つとして、車両や歩行者から局所的に得られる環境情報をデータセンターで収集・解析し、車両群へ安全性に関する情報をフィードバックすることで安全性を高めるITS(Intelligent Transport Systems)アプリケーションへの期待が高まっている。見通しの悪い交差点における衝突検知など、ITSアプリケーションの高度化のためには、車両の自律的な認知機能に加え、車両間で情報共有する機能や各車両で得られる情報を分析して活用する機能が不可欠である。そのため、セルラーシステムを介して車両環境情報をエッジサーバー上に収集して解析し、車両に解析結果をフィードバックするC-V2Xシステムが注目されている。しかし、例えば交差点における車両同士の衝突を検知する既存手法の多くは、車両位置の線形予測に基づく位置推定手法にもとづいており、車両の加減速による位置のばらつきが考慮されていない。
本研究では、車両位置を確定的に算出し利用するのではなく、車両の確率的挙動にもとづいて車両位置を確率的に算出し、衝突の可能性を確率的かつ定量的に捉える衝突検知手法を提案している。提案手法は、車両環境情報受信以前の位置確率分布算出に用いた計算結果を利用し新しく得られる位置速度情報との予測誤差を用いて逐次補正する衝突検知手法である。大阪大学情報科学科に設置したローカル5G環境とエッジサーバーを用いて衝突検知システムを構築し、さらに交通シミュレータCARLAによる実時間シミュレーションと連動させることによって交差点進入時の衝突検知性能を評価した。その結果、逐次補正を用いない既存手法では通知すべき衝突リスクの80%が進入時までに通知されないことがわかった。一方、提案手法では、すべての衝突リスクが通知されることが明らかとなった。
近年の組込みシステム技術や通信技術の進歩に伴い、CPS (Cyber-Physical System: サイバーフィジカルシステム) の実用化が進んでいる。CPSでは、フィジカルシステムにおいてセンシングを行い、サイバーシステムにおいて収集した情報を蓄積及び解析、その後再びフィジカルシステムにアクチュエートするフィードバックループによりシステムを制御している。CPS における情報の収集は、4Gや5Gなどの移動通信システムの利用も考えられており、様々なアプリケーションや大量のデバイスが動作するCPSにおいてより効率的かつ必要なタイミングでのセルラーリソースの割当が求められる。しかし、現在のセルラーリソースの割当はフィジカルシステムからのリソース要求の変化に基づいて行われており、サイバーシステムによる情報解析とは独立して行われているため、必要なタイミングで必要なリソースが割り当てられるとは限らない。したがって、フィジカルシステムの振る舞いをサイバーシステムで解析した結果をもとに、必要なタイミングでリソースを割り当てるセルラーリソース制御が重要である。
本研究では、道路等における監視カメラが走行車両の映像を基地局へ送信するCPSを想定し、5G端末と一体となったカメラが走行車両を捉えている間に多くのセルラーリソースを割り当てる手法を実現する。実装したCPSは、フィジカルシステムでは車両が走行し、サイバーシステムでは車両の位置速度情報の収集、車両位置予測を行う。ただし、現行の道路交通法では実車を用いた検証が困難であるため、ミニチュア車両を用いたCPSを構築している。また、セルラーリソース割当手法の実装にあたり、ソフトウェア無線機器を用いて5Gシステムを構築し、さらに車両位置予測結果に基づいたリソース割当が可能となるよう5Gシステムを拡張している。5Gシステムのリソースブロック数を245とし、ミニチュア車両を用いた実験によってセルラーリソース割当手法が割り当てるリソース量を評価した結果、車両の存在確率が 0 となるカメラに対して 1 スロットあたり平均 7 RB (Resource Block) を割り当てているのに対し、存在確率が高くなるカメラには存在確率最大時に 1 スロットあたり平均 120 RB のリソースを割り当てることを確認した。