近年の光伝送技術の発展には目ざましいものがあり、波長分割多重技術や光時分割多重技術などに、よってネットワークの回線容量は爆発的に増大してきた。しかし、光伝送技術とネットワーキング技術はおのおの別個の歴史を持ち、インターネットに適した光通信技術の適用形態については明らかになっていないのが現状である。短期的には、高性能光パスネットワークがその中心技術になると考えられ、その点に着目した研究を行っている。さらに長期的な解としては、フォトニックネットワーク独自の通信技術も十分に考えられる。これらの点を鑑みて、本研究テーマでは現在、以下の研究テーマに取り組んでいる。
本研究は、大阪大学大学院工学研究科北山研一教授との共同研究によるものである。次世代インターネットの基盤ネットワークとしてWDM技術にもとづいたIP over WDMネットワークが有望視されており、ノード間リンクに対してWDM技術を適用したWDMスイッチもすでに商用化されている。一方で、光クロスコネクトを用いることによって波長ルーティングを可能としたパスネットワーク技術についても研究が行われている。おそらく、IP over WDM ネットワーク実現のためには、実現可能な波長数がまず第一の鍵となるであろう。実際、1,000波長WDMは実現可能である。しかし、1,000波長WDM がたとえ実現されたとしても、それがただちにネットワークボトルネックの解消にはつながらない。論文[1]、[2]では、まず、IP over WDMネットワークのための論理トポロジー構成手法における性能指標についてまとめ、論理トポロジー構成に必要となる波長数を定量的に評価する。その結果より、IP over WDMネットワークによるネットワークボトルネック解消の際に必要となる要素技術を指摘する。
村田 正幸, 北山 研一, 宮原 秀夫, "1000波長WDM技術のIP over WDMネットワークへの適用効果," 電子情報通信学会 技術研究報告(発表予定), March 2000. [PDF]
Masayuki Murata, Ken'ichi Kitayama and Hideo Miyahara, "IP over a-thousand-wavelength division multiplexing: Is it useful and possible for resolving the network bottlenecks?," submitted to IEEE Network Magazine , January 2000. [PDF]
現状のIP over WDM技術では、ルータ間のポイントポイント間通信にWDM技術を利用することで通信回線の大容量化を図っているが、この場合、IPルータがボトルネックになる可能性は大きい。しかし、WDMネットワーク上で複数の物理リンクにまたがって同一波長を割当てたライトパスを設定すれば、IPルータが扱うべきトラヒック量を減らすことが可能になる。その結果、IPトラヒックはライトパスをリンクとする論理トポロジー上を流れ、ライトパス上の途中ノードでは{IP}トラヒックは電気的な処理を行われることなく通過することになる。従来の論理トポロジー構築の手法としては、主にネットワークのスループットを増大させるように設計されてきた。しかし、これらの手法ではライトパスを中継するルータでの電気処理により生じる遅延についてはほとんど考慮されていない。そこで本報告では、ホップ数を低く抑えることで、IPルータにおける電気処理による遅延をできるだけ小さくするための、発見的な論理トポロジー設計アルゴリズムを提案する。また、フロー割当問題の解決法の一つであるフロー偏差 (flow deviation) アルゴリズムを改良し、ホップ数を低く抑えられるようなトラヒックフロー割当を実現する。そしてこれらのアルゴリズムを用いて、従来の論理トポロジー設計手法と比較しながら議論を行ない、提案方式のIP over WDMネットワークへの有効性を示す。提案手法によって従来の設計手法よりもホップ数の少ない論理トポロジーの設計が可能となったことを示す。
加藤 潤一, "IP over WDM ネットワークにおける論理パストポロジー設計手法とフロー割当法の提案", 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2000. [PDF]
WDM(Wavelength Division Multiplexing)技術は、1波長当たり2~10Gbpsのチャネルを、20~100波長多重することで大容量化を実現する光通信技術であり、次世代の基幹ネットワークの基盤となる技術として有望視されている。しかし、現状のIP over WDM技術では、IPルータ間のポイントポイント間通信にWDM技術を利用することで通信回線の大容量化を図っている。すなわち、WDM技術によって複数の波長がIPルータ間で利用できるようになり、IPルータ間でのマルチチャネル化を実現するのみである。この場合IPルータにおける電気処理がボトルネックとなる可能性は大きい。このボトルネックの解消のために、WDM層において光パスを設定することによって、IPルータにおける処理IPにおける電気処理を軽減する方式が考えられている。また、WDMにおけるプロテクション技術は、ネットワークにおいて障害が発生した場合、光パスをあらかじめ設定しておいたバックアップパスに高速に切替える技術である。しかし、現行のIP層においても、信頼性制御のための機能が存在する。そのため、WDMネットワークにおいてプロテクション技術を適用することにより、より信頼性の高いネットワークを構築できると考えられる。ただし、IP over WDMネットワークでは、IP層における経路制御の性質を十分に考慮した上でWDMパスネットワークを設計する必要がある。論文[4]、[5]ではプロテクション技術を考慮することにより、高信頼性を持つIP over WDMネットワークのための論理トポロジー設計問題を、最適化問題として定式化している。しかし、論文における最適化問題では、少ないノード数あるいは、少ない波長の場合に対してのみ解くことができる。そこで、より効率的なアルゴリズムとして、バックアップパスへの波長割当問題に対して適用可能な、min-hop-firstアルゴリズムとtraffic-large-firstアルゴリズムを提案した。評価の結果、WDM層によって信頼性を確保する場合には、min--hop-firstアルゴリズムを適用することで、使用波長数を少なく抑えることが可能となった。ただし、IP層とWDM層において、信頼性制御機能を分担する場合には、traffic-large-firstアルゴリズムを適用することにより、障害時のIPルータのトラヒック増加量を抑えること可能となる。
荒川 伸一, 村田 正幸, 宮原 秀夫, "IP over WDMにおけるネットワーク設計手法と機能分担," 電子情報通信学会 技術研究報告 (SSE99-111), pp.1-6, November 1999. [PDF]
Shin'ich Arakawa, "Logical topology design and multi-layered survivability for IP over WDM networks," Master's Thesis, Graduate School of Engineering, Osaka-University, February 2000. [PDF]
データ発生時に波長の予約を行い、その後、高速にデータ転送を行う方式が考えられる。しかし、回線容量が大きくなると、相対的に データ転送のために波長を予約している時間、ひいてはバースト転送時間が増大し、無視できなくなる可能性がある。そこで、本研究(論文[6]、[7]、[8]、[9])では、WDM (Wavelength Division Multiplexing)技術を適用したデータ通信方式として、データ転送に必要な伝搬遅延時間を考慮したフォトニックネットワークにおけるバーストデータ転送方式を対象としたバースト転送遅延時間評価のための近似解析手法を示した。データ転送方式として、送信側から順に波長予約を行うフォワード型と、逆に受信側から予約を行うバックワード型を対象とした。それぞれの転送方式において、データ転送要求に対する波長予約が失敗した場合に再送要求があるとし、その場合のデータ転送要求発生から転送開始までの転送遅延を近似解析手法によって導出した。シミュレーション結果との比較によりその妥当性を示した後、導出した性能指標を基にデータ転送方式間の性能比較を行い、さらに、それらのデータ転送方式に対する伝搬遅延時間の性能への影響を明らかにした。その結果、バックワード型のデータ転送方式を用いることによって、フォワード型に比べ転送遅延時間を低く抑えることができた。ただし、バックワード型を用いた場合においても、ホップ数毎の平均転送遅延時間を見ると遅延時間の格差は大きいことも明らかになった。
Shin'ichi Arakawa, Kentaro Miyamoto, Masayuki Murata and Hideo Miyahara, "Performance analyses of wavelength reservation methods for high-speed data transfer in photonic networks," in Proceedings of ITC-CSCC , (Sado), pp.828-831, July 1999. [PDF]
Shin'ichi Arakawa, Kentaro Miyamoto, Masayuki Murata and Hideo Miyahara, "Delay analyses of wavelength reservation methods for high-speed burst transfer in photonic networks," in Proceeding of APCC/OECC , (Beijing), pp.445-449, October 1999. [PDF]
荒川 伸一, 宮本健太郎, 村田 正幸, 宮原 秀夫, "フォトニックネットワークにおける高速データ通信のための波長割当方式の性能解析," 電子情報通信学会論文誌(採録決定), May 2000. [PDF]
荒川 伸一, 宮本健太郎, 村田 正幸, 宮原 秀夫, "フォトニックネットワークにおける波長予約に基づくバースト転送遅延の性能解析," 電子情報通信学会論文誌(投稿中), January 2000. [PDF]
論文[10]、[11]、[12]、[13]では、光パルス圧縮/伸長技術に基づく光圧縮TDM方式を用いた双方向リングネットワークのパス設計手法を提案した。具体的には、リングネットワークに接続された全ノード間のパスを設定するのに必要となるスロット、フレーム数の理論的下限値をまず導出した。それによって、各種パラメータがフレーム数、スロット数に与える影響を明らかにした。次に、導出した理論的下限値を達成するために3つのパス設定アルゴリズムを提案している。数値例を用いることにより、それぞれのアルゴリズムにおいて最適な結果を達成するパラメータ領域が存在することをしめした。 また、論文[14]では、光パルス圧縮/伸長技術に基づく光圧縮TDM方式を用いた単一方向リングネットワークのパス設計手法を提案した。まず、リングネットワークに接続された全ノード間のパスを設定するのに必要となるスロット、フレーム数の理論的下限値を導出した。次に、全光アクセスにより導出した理論的下限値を達成するために3つのパス設定アルゴリズムを提案した。また、収容トラヒックを向上させるためにパス分割を考慮したトラヒック分割アクセスについても検討した。最後に、それぞれのアクセス方式において、アルゴリズム適用によって決定される必要スロット数、フレーム数に対するパケット遅延時間の解析手法を示し、その特性について議論している。
後久 和宏, 馬場 健一, 村田 正幸, "光圧縮TDM方式を用いた双方向リングネットワークのパス設計手法," 電子情報通信学会 技術研究報告 (SSE99-130, PS99-54), pp.51-56, Novenber 1999. [PDF]
Kazuhiro Gokyu, Ken-ichi Baba and Masayuki Murata, "On path accommodation methods for optical compression TDM ring," in Proceedings of Workshop on Optical Networks 2000 , January 2000. [PDF]
Kazuhiro Gokyu, Ken-ichi Baba and Masayuki Murata, "Path accommodation methods for the bidirectional ring with optical compression TDM," submitted to IEEE Journal on Selected Areas in Communications , October 1999. [PDF]
後久 和宏, 馬場 健一, 村田 正幸, "光圧縮TDM方式を用いた単一方向リングネットワークのパス設計手法," 電子情報通信学会 光通信システム研究会(発表予定), March 2000. [PDF]