SDI (Software Defined Infrastructure) 環境では、物理的リソースであるコンピューティングリソースとネットワークリソースをスライス化して仮想ネットワークを構築し、その仮想ネットワークをユーザに提供する。SDI環境を実現する技術として、近年 SDN (Software-Defined Networks) と NFV (Network Function Virtualization) 技術が着目されている。市場導入に向けては、技術標準化が必須であり、現在も進められているところである。しかし、SDI環境の実現に向けたもう1つの課題は、ユーザの需要に応じて仮想ネットワークと物理的なリソースの割り当てを制御することである。特に最近は、センサーデバイスの小型化や低価格化とモバイルデバイスの普及にともない、現実世界の状況をセンシングして分析処理し新たなサービスを提供する実世界センシングが注目されており、ユーザの需要に応じて高速かつ柔軟にネットワークリソースを制御することが望まれる。
本研究では、SDI環境において、局所的なコンピューティングリソース量と、サービス提供にともなって必要となるネットワークリソース量を短周期で制御可能な動的リソース制御方式を提案している。動的リソース制御方式は、現実世界のセンサー情報量と現実世界の情報に対するユーザーアクセス量をポテンシャル場として表現し、ポテンシャルの値に応じたリソース量を配備するものである。計算機を用いた数値結果により、ユーザの移動に対応してポテンシャル場が形成されること、および、リソース制約を反映したポテンシャル場が形成されることを確認した。
また、制御目標の汎用性を備え、かつ、多重スライス構成に対応可能なSDI環境におけるVNE手法として、ゆらぎ原理にもとづくVNE手法を提案している。光ネットワーク上の仮想ネットワーク制御とは異なり、SDI 環境における仮想ネットワーク制御では、回線容量やルータの処理能力制約に加え、物理サーバおよび物理サーバ上に構築される仮想マシンのリソース要件を制約に加える必要がある。そこで本研究では、ゆらぎ原理にもとづくVNT制御手法を拡張し、SDI環境における仮想ネットワーク制御手法であるVNE手法を提案している。計算機シミュレーションによる評価により、提案手法におけるVNEの移行回数が、既存の発見的手法と比較して、約45%削減されることが明らかとなった。
現実世界の事象に基づいたポテンシャルの形成 | ポテンシャル場の挙動の一例 |
通信ネットワークへの接続者数の増加に伴い、通信サービスが多様かつ動的なものとなっている。この状況に対処する方策として、ネットワーク機能の構成を動的に変更可能にする仮想化技術である Network Function Virtualization(NFV)技術が広く注目を集めている。ユーザの動的な処理要求変更に対応するためには、VNFをどのように配置するのかを、時々刻々と変化するネットワークに適応できるように、動的に解く必要がある。このような動的VNF配置問題においては、配置状態を各要求に対して適したものとすることに加え、処理要求変化後のVM再構成操作などの、動的配置に必要なコストを抑制する必要がある。本研究では生物進化の知見を利用することでこの問題を解決した。生物は、環境変動の中で進化する中で、各目標へ遺伝的に適応し、最終的に少しの構造変更で目標変動に適応できる構造を獲得する。本研究では環境変動に対する生物の進化適応の概念を導入した遺伝的アルゴリズムであるMVG を動的VNF 配置問題に応用した Evolvable VNF Placement(EvoVNFP)を提案した。提案手法では、既存の進化的アルゴリズムと比較して、短い計算時間によって解を得ることが可能であり、動的な要求変動にも追随して制御を行うことが可能であることを示した。
Network Function Virtualization (NFV) やマッシュアップWebサービスなどのネットワークシステムにおいては、実行環境の構成要素である汎用サーバ上に複数のサービスや機能を配置し、実行する。その分散配置されたサーバに、どのサービスや機能を配置するか、及び配置された各サービスや機能にどう資源を割り当て実行するかを各サーバで自律的に決定することは、物理的に広い範囲のネットワーク環境や、サーバ障害や環境変動の発生時においても、システムの冗長性や成長性を保ちながらシステム全体を制御できる。また、遺伝子ネットワークや化学反応等の生化学における特性である自己組織性や堅牢性を情報ネットワークアーキテクチャへ応用する検討が活発に行われている。
本研究では、化学反応式を利用した空間拡散モデルに基づいて、上記のようなネットワークサービスにおいて、提供するサービスや機能を適切な場所で実行し、サーバ資源をそれらで効率よく共有する手法を提案している。提案手法では、サービスや機能を実行するサーバを個々のタプル空間とみなし、ユーザからのリクエスト量やサービスの需要量等を化学物質として考え、サーバ内の局所的な状況を化学物質の濃度変化や拡散によって表現する。そして、その空間で、各サービスに対するリクエストをサーバ資源を用いて処理する反応式を定義し、それを実行することにより、サービスの需要に応じたサーバ資源の共有をシステム内の各デバイスの自律的な動作によって実現する。
また、提案システムをNetwork Function Virtualization (NFV)を実現するために適用することを考え、NFVにおけるサービチェイニング、Virtualized Network Function (VNF)のサーバへの配置、フロー経路の決定などを行うための化学反応式を構築し、その有効性を確認した。また、簡易なNFV環境を用いた実装実験により、提案システムが仮想化ネットワークシステムに求められる様々な機能を実現できることを確認した。
近年、Webパフォーマンスの重要性が注目を集めている。Webパフォーマンスとは、Webページ上のリンクがクリックされてから、次のWebページを構成するオブジェクトがダウンロードされ、表示が完了するまでの時間である。ユーザはWebパフォーマンスが低いWebページから離れる傾向にあり、Webパフォーマンスの低下はサービス提供者の収入の低下に直結する。このため、サービス提供者は自身が提供するWebページのパフォーマンスを測定し、パフォーマンス低下の原因を究明、改善する必要がある。しかし、このようなWebパフォーマンスの低下原因は、ネットワーク環境やクライアントの性能等、Webブラウザの動作環境によって変わると考えられる。
本研究では、Webブラウザの動作環境を変化させ、且つ、Webパフォーマンスに加えてサーバ・ネットワーク・クライアントそれぞれのパフォーマンスについて測定可能とする、Webパフォーマンス測定プラットフォームを提案した。提案手法を評価した結果、提案手法は959個のWebページの88のホストでの測定において、測定にかかる稼働は30分程度でWebブラウザの動作環境の多様性によらず一定であり、PlanetLabを用いることで多様なWebブラウザの動作環境での測定ができることを確認した。これにより、測定結果から、Webページのパフォーマンス改善の方針を検討できるデータを収集することができた。
クライアントPC からのリクエスト受信時に、サーブレットやJava Server Pages (JSP)のプログラムをサーバ側で実行するか、JavaScript で書かれたAjax やDOM によるプログラムをHTML に埋め込みクライアントPC 側で実行することで生成される動的オブジェクトの割合が増加している。その結果、Webサイト閲覧時に発生する通信パターンが複雑化している。一方で、67%のユーザは毎週のようにWeb 閲覧時の待ち時間の長さを感じており、17%のユーザはWeb 閲覧時に最大でも5 秒しか待てないという報告がなされており、複雑性を増すWeb トラヒックをいかにして効率的に配信するかが重要な課題となっている。
本研究では、そのような動的コンテンツを効率良く配信するために、クライアントに近いエッジネットワークにおいてコンテンツを生成・配送するエッジコンピューティングに着目した。しかし、エッジコンピューティングの有効性は、オブジェクトの地理的な分散配置や、Webページのジャンルに依存したコンテンツの地理的配置に依存する。そこで、そのような地理的傾向を計測し、その結果と数学的解析を用いることによって、エッジコンピューティングがWeb性能向上に寄与する度合いを明らかにした。1,000のWebサイトのコンテンツを12箇所からダウンロードする実験の結果、提案方式によってWebのレスポンス時間を20%削減できることを明らかにした。
近年、IoT (Internet of Things)の進展を背景に数多くの新しいアプリケーションやサービスが登場し情報ネットワークは急激に変化している。新しいアプリケーションやサービスの例として、カメラやセンサーなどを搭載したエンド端末において取得された情報を、別拠点のデータセンターで処理し、結果をエンド端末へ提示するサービスが考えられている。しかし、エンド端末とデータセンターが地理的に離れることや、大量のデータがデータセンターに集中することで、遅延が増大する。このような問題に対応すべく、ネットワークそのものに柔軟性を持たせる一つの方法としてネットワーク機能仮想化 (NFV: Network Functions Virtualization)が期待されている。さらには、ネットワーク機能だけではなくアプリケーション機能を仮想化してモバイルエッジに配置し、地理的な遅延の解消および負荷の分散によるアプリケーションやサービスに対する応答性向上を期待するエッジコンピューティング (EC: Edge Computing)の導入が進められている。エッジコンピューティングによって応答性向上が期待される一方で、仮想化環境でのソフトウェア動作による処理速度の低下が懸念される。そこで、本報告では、実機を用いたモバイルエッジコンピューティング環境を構築し、アプリケーションやサービスを柔軟に提供した際に生じるユーザの通信品質に与える効果を明らかにした。実機実験の結果、ネットワーク仮想化によるソフトウェア動作から生じる処理速度低下は、地理的な要因によって生じる遅延に比べ十分小さく、サービス機能を遠隔地からユーザに近い拠点に再配置することにより、通信遅延時間が最大でおよそ3割低減され、ユーザの通信品質が改善されることが明らかとなった。
あらゆる情報に通信ネットワークを介して享受できる時代が近づく中、ユーザの求める様々な品質要求に対して、柔軟に対応できるネットワークの実現が望まれている。近年では、ユーザの体感品質(QoE; quality of experience)を向上する技術が重要視されており、これまで、ユーザのQoE を推定する様々な研究が行われてきた。QoE は人の主観にもとづく指標であり、時々刻々と変化するため、ユーザのQoE を真に向上するためには、時々刻々と変化するユーザのQoE を把握し、その向上のために適切な制御をネットワーク側において行う必要がある。本研究では不確かな観測情報に基づく脳内の情報認知を模したベイジアンアトラクターモデルを動画像ストリーミングのレート制御に用いることでユーザQoE の向上を行う。