モバイルインターネットアーキテクチャに関する研究

事前の配線を必要とせず,必要に応じて,適宜,柔軟にネットワークを構築することのできる無線通信技術は,デバイスの小型化および省電力化,高機能な携帯電話の普及,無線ホットスポットの広がり,ユビキタスコンピューティングに対する期待の高まりなどを背景に,企業や研究者の注目を集め,急速に発展している.現状では,いわゆるアドホックな,その場限りであれ,接続性を確保することが最重要であり,続いて,信頼性の高い高品質な接続の確立および維持,さらに無線通信上でのQoS保証,制御を目指した取り組みがなされている.本研究テーマでは,その先の段階として,モバイルホストやセンサ端末など個々の機器の自律的な,完全分散型の制御による,拡張性,耐障害性,適応性,柔軟性を有するアーキテクチャの確立を目指す.

センサネットワークにおけるセンサ情報収集のためのクラスタリング

無線通信機能を有する数百〜数千のセンサ端末を無センサ置し,環境や物体の情報を収集するセンサネットワークにおいて,長期間の観測を行うためには,電力効率のよいセンサ情報収集機構が必要不可欠である.センサ情報収集の電力消費を抑えるためには,近隣のセンサ端末間でクラスタを形成し,クラスタ内であるセンサ端末(クラスタヘッド)にセンサ情報を集約し,クラスタヘッドが基地局にセンサ情報を送信する手法が有効であると考えられる.さらに,クラスタヘッドを交代制にし,センサ端末間で電力消費を均一化するのがよい.

本研究では,局所的な情報のやりとりを通じたセンサ端末の自律的な判断により,残余電力を考慮した効率のよいクラスタを形成するクラスタリング手法を提案する.提案手法は,蟻の敵味方判別の仕組みを応用したクラスタリング手法である,ANTCLUSTに基づいている.蟻は,遭遇した他の蟻と化学物質を交換することによりその所属する巣を推定し,敵か味方かを判別する.一方,提案手法では,残余電力の多いセンサ端末がクラスタヘッドに立候補し,他のセンサ端末の一部がクラスタの情報をブロードキャストしてクラスタの情報を周囲に広告する.この広告の受信を遭遇とみなし,受信した情報から自身の所属すべきクラスタをセンサ端末が自律的に判断することによりクラスタが適切に再構成される.シミュレーションによる評価の結果,初期電力が均一,不均一に関わらず,クラスタベースのセンサ情報収集機構LEACHよりも長期間にわたってセンサ情報の収集が可能であることを示した.

[関連発表論文]

同期型センサ情報収集機構

センサ端末から定期的にセンサ情報を収集するセンサリケーションに対しては,情報収集の周期にあわせて,センサネットワークの周縁部のセンサ端末から順にセンサ情報を発信し,より基地局に近いセンサ端末が中継する手法が効率的である.さらに,基地局から同程度離れたセンサ端末が同期してセンサ情報を発信すれば,より基地局に近いセンサ端末は信号受信のタイミングだけ無線受信機の電源を入れればよく,また,受信したセンサ情報と自身のセンサ情報を集約してデータ量を減らすことができれば,より電力効率のよいセンサ情報の収集が可能となる.

本研究においては,拡張性,耐障害性,適応性,柔軟性があり,電力効率のよい,同期型センサ情報収集機構を提案している.個々のセンサ端末が自律的にセンサ情報を発信するタイミングを調整することにより,互いに直接信号をやりとりすることのできないセンサ端末が同期し,センサネットワーク全体として適切な周期,タイミングでセンサ情報が収集される.そのため,提案手法では,蛍やコオロギなどに見られる相互干渉による同期メカニズムをモデル化した,パルス結合振動子モデルを応用している.シミュレーションにより提案手法の有効性を示すとともに,市販の無線センサ端末MOTE2への実装を通じ,無線通信の不安定性による提案手法の問題を解決し,その実用性を示した.

[関連発表論文]