広域ネットワークの広帯域化を背景に、オンプレミス型プライベートクラウドとパブリッククラウドを組み合わせてアプリケーションシステムを構成するハイブリッドクラウドが普及しつつある。特に、計算リソースを定常的にプライベートデータセンタに配備し、リソース不足時にパブリックデータセンタへスケールアウトを行う方式をクラウドバースティングと呼ぶ。このクラウドバースティングにおいては、プライベートとパブリックの各データセンター間の負荷分散を適切に行うことで、サービスレベルを守りつつ全体コストを最小化することが求められる。
そこで本研究では、ビジネスクリティカルシステムに対して、プライベートおよびパブリックデータセンタの二センター構成とし、平均的な処理要求に必要な計算資源をプライベートデータセンタに固定的に配備し、処理要求の増加時にはパブリックデータセンタの計算資源をオンデマンドに拡張することで、可用性や性能要件を満たしつつ計算資源の利用効率を高める方式を提案した。具体的には、モデル予測制御の適用により、計算資源の過度なスケールアウト/インを避けつつ目標利用率を保つ。まず、計算資源のコスト、障害耐性、操作量に着目した評価モデルを提案し、次いで、実ウェブシステムのトレースデータを用いて計算機シミュレーションを行った。リクエスト受信率予測誤差によりシステム利用率が頻繁にしきい値以上となるが、操作量を考慮することで制御回数が抑制され、結果として高利用率が緩和されることを示した。
クラウドストレージは、様々な場面で使われるようになり、重要なデータもクラウドストレージ上に配置されるようになってきた。その結果、データの可用性が重要となり、クラウドストレージの提供者はシステムの一部が故障しても、ユーザがファイルのアップロードやダウンロードを可能とする必要がある。本研究では、このような故障がおきた際にも、サービスを維持できるような分散型クラウドストレージシステムを提案した。分散型クラウドストレージでは、各データチャンクの複数のレプリカを地理的に異なる複数の仮想ストレージに配置する。その結果、もし、一つの仮想ストレージが利用不可となった場合であっても、ユーザは他の仮想ストレージからデータをダウンロードすることが可能となる。本システムにおいては、仮想ストレージの配置が重要である。もし、単一故障により、複数の仮想ストレージがアクセス不可となる可能性があれば、多数のレプリカを配置しておかなければ、データの可用性を維持できない。多数のレプリカを維持するためには、仮想ストレージ間で多量の通信を行うことが必要となり、ネットワークに負荷をかける。本研究では、少数のレプリカの配置で可用性を保証できるような仮想ストレージの配置方法を提案した。そして、評価により、提案手法を用いることで、故障時の可用性を考慮せずに仮想ストレージの位置を決める手法と比べ、可用性を維持するのに必要な仮想ストレージ間の通信量を60%まで削減できることを示した。
データセンター内では複数のサーバが連携して一つの大きな処理を行なっており、データセンターの処理性能を確保するためには、広帯域・低遅延でサーバ間を接続するネットワークが必要となる。その一方、ネットワークがデータセンター全体に占める消費電力の割合は小さくなく、データセンターの消費電力を削減するためには、サーバや空調の低消費電力化のみではなく、ネットワーク低消費電力化も必須である。これらの問題を解決する機器として、光電子融合型パケットルータの開発が進められている。光電子融合型パケットルータでは、光スイッチと電気のバッファを持つ機器であり、パケットの衝突等が発生しない場合は、光・電気の変換を行わずに、高速かつ低消費電力な通信が可能となる。また、必要に応じて電気バッファを用いることにより、集中的なパケット送信スケジューリングを行うことなく、パケットロス率を十分低く抑えることができる。
光電子融合型パケットルータは、光ポート間に低消費電力で広帯域の通信を収容できる。加えて、光電子融合型パケットルータは、電気ポートも保持しており、サーバラックと直接接続できる。本研究では、光ポート間に広帯域な通信を収容できるという点と、サーバラックから光電子融合型パケットルータに直接接続可能であるという利点を生かし、光電子融合型パケットルータを用いたデータセンターネットワークの構成方法を提案した。本構成方法では、各サーバラックから複数の光電子融合型パケットルータに接続する。そして、サーバラック・光電子融合型パケットルータ間の接続構成を考慮した上で、サーバラック間のホップ数を短くしつつ、広帯域な通信経路が確保できるように、光電子融合型パケットルータ間の接続を決定する。シミュレーション評価により、提案した手法により構築されたデータセンターネットワークが、同数のルータを用いたTorus型やFatTree型といった従来のデータセンターネットワークよりも多くのトラヒックを低遅延で収容できることを示した。
また、光電子融合型パケットルータを用いて構築されたデータセンターネットワークでは、必要な箇所のみバッファの電源を投入することにより、通信性能を劣化させることなく低消費電力化ができると期待できる。そこで、本研究では、バッファの電源の切断による省電力化も考慮に入れた、低消費電力で十分な通信帯域を確保するための経路制御手法を提案した。評価の結果、遅延最小化を目的とした手法と比較して、提案手法が遅延に関する性能要件を満たした上で消費電力を34% 程度削減可能なことが分かった。
大規模なデータセンターでは、サーバの故障による離脱や、新たなサーバの追加といった環境変動が頻繁に発生し、それらの環境変動への対応を少ないメッセージ交換で可能とするデータセンターネットワークが必要とされている。本研究では、仮想化されたデータセンターネットワークにおいて、仮想クラスターを導入することにより、大規模ネットワークにおいて、環境変動への対応を少ないメッセージ交換により瞬時に行うことができる手法を提案した。本提案では、同一のアプリケーションに関係する仮想マシンなど、頻繁に通信を行う仮想マシンを一つの仮想クラスターにまとめる。また、各仮想クラスターには、仮想ネットワーク内の複数のスイッチを割り当てる。各仮想クラスターに割り当てられたスイッチは、Abstraction layerと呼ばれる層を形成する。クラスター内の通信は、Abstraction layer内のスイッチを介して行われ、他クラスターへの通信は、Abstraction layerのスイッチを介して、他のクラスターに対応するスイッチへ送られる。Abstraction layerを構成することにより、各仮想クラスター内のサーバの追加・離脱といった環境変動は、対応するAbstraction layer内のスイッチの設定変更のみで対応が可能となるため、大規模なデータセンターにおいても、メッセージ交換を増大させることなく処理可能となる。
本研究では、シミュレーション評価により、仮想クラスターを構成することにより、サーバ故障時の対応に必要なメッセージ交換を少なく抑えることができることを明らかにした。
ネットワーク機能を仮想化する技術に関する研究が進められている。仮想化されたネットワーク機能(VNF)は、当該機能を実行するのに十分な資源のある機器であれば、いずれの機器で動作させることも可能となる。そのため、状況に応じて、ネットワーク機能を配置する位置を変更するといった柔軟な制御が可能となる。
本研究では、光電子融合型パケットルータを用いたネットワーク上に、VNFを配置する問題について議論を行った。従来、VNFはサーバで動作をさせることを前提として議論が行われてきた。しかしながら、サーバの計算能力を必要としない機能であれば、サーバ以外に当該機能を持たせることも可能である。特に、光電子融合型パケットルータを用いたネットワークでは、光電子融合型パケットルータにおいて光パケットのまま処理ができる機能を光電子融合型パケットルータに配置することにより、光パケット・電気パケットの変換回数を削減することができ、低遅延な機能の収容が実現できる。本検討では、光電子融合型パケットルータ上に収容可能なVNFとして、ロードバランサを考え、その実現方法について議論した。さらに、シミュレーション評価により、VNFのうち、一部の機能を光電子融合型パケットルータに収容することにより、光・電気の変換回数を削減できることを示した。