9. 脳や生体の頑強性や適応性に着想を得た情報ネットワークアーキテクチャの構築に関する研究

本研究テーマでは,近年のインターネットの飛躍的な発展に伴って顕著になりつつある諸問題を,生物学の研究において得られた知見に基づいて解決するとともに,ネットワーク分野における新たなブレークスルーを生み出すことを目的としている.特に,将来の情報ネットワークアーキテクチャに重要になると考えられる特性として拡張性,移動性,多様性の3つのキーワードを掲げ,それらの特性を持つネットワークに適した制御技術を対象として研究開発を進めている.

9.1 自己組織型ネットワークアーキテクチャに関する研究

本研究課題における目的は,アドホックモバイル環境を含めた現状のインターネットの各層における制御やプロトコルを今後どのように変革していけばよいのかという根源的な問いに対する解答を得ることである.ネットワークにおける重要な概念の一つに階層化がある.これは複雑になるネットワークシステムの機能を階層化して分割することで,それぞれの階層における機能を明確化・単純化することにあった.その利点は大きい.これまでのネットワーク設計は,一言で言えば「現状および近未来の技術水準に基づくサービス品質の最適化」にある.階層化することによって,全体のネットワークシステムを最適化するのではなく,ある階層に着目し,下位層および上位層を抽象化することによって,システムの最適化をより簡単な問題として扱えるようになる.その結果,ある階層のプロトコル制御を最適化できれば,最終的に全体の制御が最適化できるようになることが期待できる.しかし,それ故に,下位層は安定した振る舞いをすることを仮定することになり,また,上位層についてはそこで規定されるトラヒック特性や要求品質を既知とし,対象とする階層への入力として最適化問題を解くことになる.

一方,本研究テーマで目指す自己組織型制御においては,上下の階層間のインタラクションが重要となる.例えば,下位層の時間的な変動が,上位層に影響を与える動的システムとして捉える必要がある.すなわち,階層間のインタラクション(縦のインタラクション)を設計自体に取り込んでいく必要がある.最近,QoSを保証しないIPネットワークにおいて,アプリケーションの求める通信品質,機能を提供するためのアプリケーション層サービス(オーバーレイネットワーク)が最近注目を集めているが,これらのオーバレイネットワークがTCP/IPを使う場合を考えると,複数のオーバレイネットワークがTCP/IP資源を競合して使うことになる(横のインタラクション).資源の有効利用を考えた場合,従来は,オーバレイネットワーク同士が協調する機構を導入するのが通例であり,半ば常識であった.しかし,それぞれが適応型,自律分散型制御を行うだけで資源の有効利用が図れるのであれば,協調型制御を導入する必要はなくなる.また,それぞれのオーバレイネットワークが環境適応型制御を行う場合にインタラクションがどのように作用するか,積極的な協調制御を行う必要があるのか,などを明らかにしなければならない.

これまで,ネットワークは,人と人をつなぐ電話網,人とコンピュータ,コンピュータとコンピュータをつなぐインターネットとして発展を遂げてきた.今後,情報環境情報ネットワークを実現するためには,小型コンピュータチップを搭載するセンサー群などを多数接続し,地球規模の環境情報を取得し,処理を施した後にそれらの情報を人に提示したり,さらには人を介することなくコンピュータ群が環境に対して制御を行う機構が重要となる.すなわち,電話網におけるCommunication,インターネットにおけるComputing & CommunicationにControlが加わったもの(C3アーキテクチャ)と考えることができる.最初に示した拡張性,移動性,多様性の3つの性質は,アンビエント環境情報ネットワークではより重要なキーワードになると考えられ,生物学に基づく自己組織型のネットワーク制御はなくてはならないものになると考えられる.問題は,このような制御を今後設計していく際の根本的な設計原理として何を考えるかである.そのために我々は,ネットワークを複雑適応系として捉えることが重要であると考えている.

9.1.1 熱力学に基づく自己組織型ネットワーク制御の協調に関する検討

ロバスト性の高い通信ネットワークを実現するために,自己組織型ネットワーク(SON)制御への期待が高まっている.SON 制御のランダム性は,制御のロバスト性に寄与するが,同時に,制御を良い状態に留まり難くする.SON 制御のロバスト性と性能はトレードオフの関係にあるため,単一の SON 制御ではこれらを両立させることは難しい.そこで,通信ネットワークを構成する複数の SON 制御が分担してランダム性を持つことで,システム全体でのロバスト性と性能を両立させる.本研究では,熱力学的知見に基づいて,複数の SON 制御にそれぞれどの位のランダム性を持たせるのかを決定する方法を述べる.

[関連発表論文]

9.1.2 自己組織型ネットワーク制御の収束性・適応性・安定性向上に関する検討

2.1.2節再掲

9.1.3 大規模無線センサーネットワークにおける管理型自己組織化制御に基づくポテンシャルルーティング

2.1.3節再掲

9.1.4 任意のノード間通信を実現するポテンシャルルーティング

2.1.4節再掲

9.1.5 制御時間スケールに着目した管理型自己組織化制御に基づくネットワークの設計手法

2.1.5節再掲

9.1.6 生物ネットワーク特性に基づくサービスアーキテクチャに関する研究

3.2.1節再掲

9.2 自己組織化制御技術の確立

本研究課題の目標は,生物に学ぶネットワーク制御を新しく発展しつつあるネットワークに適用し,ネットワーク制御技術を確立することである.すなわち,生物システムのロバスト性,適応性,自律性に学びつつ,従来のネットワーク研究の単なる延長ではない新たな自己組織型ネットワーク制御の実現を目指している.

生物界の挙動を情報システムに持ち込んだ例としては,過去にも遺伝子アルゴリズム(Genetic Algorithm)や ACO(Ant Colony Optimization)などがあったが,これらは遺伝子をモデル化したり,アリの生態を模すことによって最適化問題を扱おうとするものであり,本研究テーマの目標とは根本的に異なるものである.特に,本研究テーマにおいては,生物の様態や挙動を数理モデルとして扱われているものをネットワーク制御に持ち込んでいる.これがないと,現象や制御の説明を生物に例えて説明するだけの単なるアナロジーに過ぎないものになる.数理モデルを扱うことにより,その安定性やパラメータ感度に関する数学的な議論も可能となる.すなわち,ここで扱う研究課題は,単に生物学分野に限らず,生物学分野と情報ネットワーク学分野の共通の土台としての応用数学や統計物理学などの学術分野における過去の知見も活用しつつ,真の先端科学技術の融合を実現するものである.

自己組織型制御は,一般に以下の性質を持つものとして定義される.

ネットワーク制御においては,正のフィードバックを基本とし,負のフィードバックを加えることはもともと必須のものであった.ランダム性の導入は,特に時間的変動のあるシステムに対してロバスト性を確保するのに必須要素と考えられ,経験的にはこれまでも一部採用されていたが,生物に学ぶネットワーク制御によって,その妥当性が実証されたと言える.さらに,エンティティ間の通信による行動の決定という点については,環境を介した間接的なインタラクションによって全体の制御を実現する (Stigmergy) ことの重要性が明らかになった.以上のことから,生物に学ぶネットワーク制御を実現したことにより,拡張性,移動性,多様性に対処可能なシステムの構築可能性が証明できつつあると言える.

特に,センサーネットワークにおいては,ノード数,適切なクラスタ数,それらの位置などはあらかじめ知ることができないため,自律的に発見する必要がある.そのために本研究課題で示した解決策は,必須技術であるといえる.さらに,センサーネットワークを含めた無線環境においては,環境変動が激しく,数学モデルによる予測が不可能であるといっても過言ではない.従来,例えば,受信電力強度は距離の自乗に反比例することが知られており,また,ビット誤りの発生モデルとしてギルバートモデルがよく用いられる.また,フェージングやマルチパスの数学モデルの提案なども古くから行われている.しかし,これらの多くでは,ある一定の環境(会議室,屋上,広場など)を想定した上でパラメータ同定が行われる.逆に言えば,環境が異なればパラメータが異なってしまい,実用に耐え得るものとは言い難い.また,モデル自体,長時間にわたる,すなわち統計的に意味のある時間オーダで検証が行われているものであり,ネットワーク制御のように小さい時間オーダでの動作を前提とする環境では到底用いられるものではない.すなわち,本研究のテーマの成果により,ネットワークノードが環境に適応することを前提とし,さらに環境変動にも柔軟に対応できるような制御をあらかじめ組み込んでおくことの重要性が示されつつある.

以上,本テーマの研究成果は,基本的には自己組織型制御に基づいてロバスト性を確保し,さらには間接的なインタラクションによって全体の制御を実現したり,環境を介した通信によって全体の制御を実現するものであるが(「群行動によるインテリジェンス」),これは複雑適応系で議論されるところの「要素の寄せ集めではなく,自己組織化によってパーツの集合体以上の振る舞い」の実現そのものであり,それが,われわれが複雑適応系に着目している理由である.

9.2.1 自己組織的役割分担機構のネットワーク制御応用のための特性解析

2.1.1節再掲

9.2.2 モデル予測制御の自己組織型経路制御手法への応用

2.1.7節再掲

9.2.3 アトラクター選択原理に基づく経路制御に関する研究

2.2.1節再掲

9.2.4 アトラクター摂動を利用したマルチパス経路制御に関する研究

2.2.2節再掲

9.2.5 トラヒック変動耐性を考慮した仮想ネットワーク構築手法

5.1.2節再掲

9.2.6 トラヒック統計情報を用いたフロー分類への群知能に基づくクラスタリング手法の適用

5.2.2節再掲

9.2.7 フォトニックインターネットにおける論理トポロジー制御手法に関する研究(NTTネットワークサービスシステム研究所との共同研究)

8.1.1節再掲

9.2.8 生命システムに学ぶ論理トポロジー制御手法に関する研究(脳情報通信融合研究センター(CiNet)との共同研究)

8.1.2節再掲

9.2.9 フォトニックネットワークを用いたネットワーク仮想化に関する研究 (NTTネットワークサービスシステム研究所との共同研究)

8.1.3節再掲

9.3 複雑適応系としてのネットワークにおける制御技術の確立

これまでロバスト性や安定性を有するシステムを特徴付けるものとして以下が挙げられている.これはネットワークを複雑系として捉えられることを意味している.

しかし,真にロバスト性や安定性を確保するためにはこれだけでは不十分である.既存のインターネットだけでなく,将来のアンビエント環境情報ネットワークにおいてロバスト性や安定性を得るためには,最近よく指摘される複雑適応系として以下の性質を満たすことが重要である.

以上より,ネットワークを複雑適応系として捉えつつ構築することによって,ネットワークの動的な変化に適応可能で,自己修復性,適応性,耐故障性のあるシステムを,それぞれのエンティティにおいて明示的に意識して埋め込むことなく実現できることが期待できる.エンティティを単純化することによってソフトウェアバグの混入が避けられるため,副次的な効果としてシステムのロバスト性がこの点からも期待できる.

一方,複雑適応系と密接に関連するものとして,近年脚光を浴びているのがべき則である.特に,ノードにおけるリンクの接続数がkになる確率がk-γで与えられるようなトポロジーを有するネットワークに関する研究が盛んに行われており,べき則は遺伝子代謝ネットワーク,神経回路網,送電網,知人関係,論文引用関係,WWWのリンク数,P2P接続関係,インターネットのルータ接続関係など人文科学,社会科学,自然科学を問わず多くの研究分野において「発見」されている.最近はなぜべき乗則になるのかについての究明も行われている.一般には,自己組織化(Self-organization),動的進化(Dynamical evolution),多数の相互干渉(Many interacting units)などで説明されており,べき則を再現するトポロジー生成モデルとして,Barabasi-Albert(BA)モデルなどが有名である.そこでは,選択的接続(Preferential Attachment),成長するネットワーク(Incremental Growth)を核とし,ノードをリンクに加える時に接続数による重みを考慮している.情報ネットワーク分野においては,BAモデルは例えば,P2Pネットワークのトポロジーがべき乗則に従うことをうまく説明できているように見える.

しかし,べき乗則だけでトポロジーが決まるわけではもちろんない.情報通信ネットワークが他のネットワークと異なる点として,

などが挙げられる.すなわち,インターネットトポロジーの場合には,地理的関係,回線やルータのコスト,人為的な要素(設計)なども考慮する必要がある.あるいは,それらの要素も考慮した上でやはりトポロジーがべき則に従うとすれば,それを説明する普遍的な理由を考えていく必要がある.

特に,最近の脳機能に関する研究が進められるにつれ,べき則よりも機能別ネットワークの相互接続ネットワークとしての脳機能ネットワークが注目され,スモールワールド性がより重要な意味を持つことが明らかになりつつある.重要なことは脳機能ネットワークに現れる優れた特性を踏まえてそれをいかに情報ネットワークに適用するかであり,本研究では脳機能ネットワークの特性分析とともに,それをいかに情報ネットワークに適用するかについて研究を開始している.

いずれにしても,複雑適応系に現れるべき則が単なる現象としての結果なのか,必然的に現れるものなのか,がここでの問いである.重要な点は,インターネットは他の複雑系と異なり,制御可能であるという点である.すなわち,インターネット自体が複雑系に関する巨大な実験場と見ることもでき,本研究テーマで得られた知見を他の複雑系に関する研究にフィードバックすることも将来的には可能であると考えている.

9.3.1 インターネットトポロジー成長のモデル化手法に関する研究

通信需要の増加に伴い,インターネットの規模は拡大し続けている.インターネットでは,AS間の相互接続リンクを通してトラヒックが交換される.しかし,現在のインターネットでは,AS同士の局所的な決定によって相互接続リンクが構築され,インターネットトポロジー全体の構造を考慮したトポロジー成長は行われていない.本研究では,今後の通信需要増加に伴ってインターネットでどのような問題が生じるのかを分析し,また,その問題を回避する方法を検討している.本研究では,ASレベルトポロジーを,リンクで密に繋がれたAS の集合への分割を繰り返すことで導かれるフロー階層と呼ばれる階層構造を抽出し,その構造の変化を分析している.フロー階層の構造は,トポロジーが大規模化するにつれ,幅が広がるように成長しており,一部のASにトラヒックが集中する傾向にあることがわかった.また,近年ではフロー階層の2 階層におけるリンクに,トラヒックがより集中する傾向にあることが明らかとなった.

[関連発表論文]

9.3.2 堅牢性向上のためのインターネットトポロジー設計手法に関する研究

インターネットの規模が大きくなるとともに,インターネットの堅牢性が重要視されつつある.堅牢性とは,ネットワーク機器やネットワーク機能の一部に障害が発生したとしても,ネットワークとして機能を果たす性質である.これまでにもネットワークの高信頼化へ向けたネットワークトポロジーの構築手法や,障害発生時に短時間で復旧可能な経路制御手法など,様々な研究が行われてきたが,その多くは単一のネットワークを対象としたものであった.しかしインターネットは複数のAS間が接続することにより形成されており,個々のAS が管理するネットワークは小さな局所ネットワークが相互に接続することによって構成されている.そのため,単一のネットワークの信頼性向上だけではなく,ネットワーク全体の堅牢性向上を目指す必要がある.本研究では,ネットワーク全体の堅牢性向上のために,複数のネットワーク間をどのように接続すればよいかを明らかにしている.様々なネットワーク間の接続構造について,ノード障害に対する故障耐性を比較評価した結果,ネットワーク間のリンク本数が同一の条件下では,ネットワークの中心部およびその周辺を密に相互接続し,かつネットワーク内の位置情報に依存しない様々なノードを接続するマルチスケール構造が高い故障耐性を示すことが明らかとなった.1000 ノード規模の2つのネットワークを,マルチスケール構造によって接続した場合,上層のみを密に接続する場合に比べて障害発生時の平均ホップ長を最大でおよそ0.3抑えることが明らかになった.

[関連発表論文]

9.3.3 生物の多様性にもとづく持続成長可能な情報ネットワークの設計手法に関する研究(KDDI研究所との共同研究)

インターネットの社会インフラ化が進み利用形態が多様化するにつれ,トラヒック需要の変化やネットワーク機器故障に対する適応性や拡張性の高いネットワーク設計が重要になりつつある.しかし,需要の変化や機器故障の事象は予測困難であるため,事前に発生頻度や発生規模を想定して設備設計を行うネットワーク設計手法が広く検討されてきた.ところが,そのようにして設計・構築されるネットワークは,設計時の環境下ではよい性能が得られるものの,環境が大きく変化すると急激に性能が劣化し,大幅な設備増設もしくはネットワークの再設計が必要となる.本研究では,トポロジーの構造に多様性を持たせることで環境変化に対する適応性や拡張性を高め,将来にわたって少ない設備量で環境変化に対応可能なネットワーク設計手法の検討を進めている.

本研究では,トポロジーが有する構造の多様性を測る指標として残存次数の相互情報量に着目し,その有用性を評価する.評価の結果,ルーターレベルトポロジーの残存次数の相互情報量は約1.0となり,トポロジー構造の多様性が低いことがわかった.また,相互情報量が小さいとトポロジー構造が多様となり,相互情報量が大きいとトポロジー構造に規則性が生じることを示した.また,トポロジー構造の多様性を高めるネットワーク設計手法を提案し,FKPモデルに基づいて規模拡張したネットワークと比較評価した.その結果,提案手法に基づいて規模拡張したネットワークは,FKPモデルに基づいて規模拡張したネットワークと比較して,単一ノード故障に対応するために求められる回線設備量を半減することが明らかとなった.

[関連発表論文]

9.3.4 生物の進化適応性にもとづく情報ネットワークの構築手法に関する研究

生物システムは,環境変動に対して安定して機能する頑強性と環境が大きく変動した際に自身の状態を大きく変える可塑性を備えていることが知られている.本研究では,頑強性や可塑性を備えた生物システムの進化適応を参考に,適応性や拡張性の高い情報ネットワークの構築手法を検討している.本研究では,フォトニックインターネットを対象として,トラヒック需要増大に伴う物理設備量の増強を環境変動の1つとして捉え,様々な環境変動に対する進化適応性を備えた物理ネットワークを構築するためのネットワーク設備増強手法を提案している.提案手法では,頑強性と可塑性を備えた生物の進化を説明する数理モデルを導入し,ポート数増強の指針を得る.可塑性を備えた物理トポロジーを構築することで,設定できるVNT の多様性が増し,アトラクター選択にもとづくVNT 制御による将来の環境変動に対する適応性が更に向上すると期待される.提案するポート追加位置決定手法では,ポート追加の候補となる1つのノードに暫定的にポートを追加して得られる物理ネットワーク上で,生物の進化モデルを応用したダイナミクスに従いVNT 制御を行い,システムの適応性を試算する.これをポート追加の候補となるノードそれぞれに対して行うことで,もっとも進化適応性が高まるポート追加位置1 箇所を決定する.その過程を繰り返すADD アルゴリズムによって,ポートを追加する.計算機シミュレーションによる評価では,ヒューリスティックなVNT 設計手法であるI-MLTDA を用いて現在のトラヒック需要に最適な位置にポート追加を行う手法と比較した.12 ノード規模のネットワークを対象に計算機シミュレーションを行った結果,提案手法は比較手法と比べて適応可能な通信量が約8%増加することが明らかとなった.

[関連発表論文]

9.3.5 脳機能ネットワークの接続構造の分析とインターネットの高機能・高品質化に関する研究

インターネットは世界最大規模の人工ネットワークであり,大規模複雑化するインターネットをより高品質なものにすることが望まれている.高品質化への手がかりは,多彩な機能を高度なレベルで発揮しているヒトの脳機能ネットワークに見出すことができる.ヒトの脳は非常に複雑でありながら少ない消費エネルギーで管理・制御されており,脳が機能を発揮するときの処理は他の生物と比較して高度に最適化されていることが明らかにされてきた.脳機能ネットワークの特性に関する研究として,トポロジー構造をグラフ理論にもとづいて解析することが広く行われており,インターネットには見られない脳機能ネットワークに固有の構造としてボクセルレベルのトポロジーにおいてフラクタル性を有していることが明らかにされている.したがって,脳機能ネットワークのフラクタル性を取り入れることでインターネットの高品質化が期待できる.ただし,そのためには脳機能ネットワークの接続構造とその構造によってもたらされる利点を解明しなければならない.本研究では,脳機能ネットワークの構造的特徴としてフラクタル性に着目し,フラクタル性の要因となる接続構造およびその構造によってもたらされる利点を明らかにする.分析の結果,脳機能ネットワークは機能モジュールの接続性に関するフラクタル性を有しており,比較対象トポロジーと比べて5 倍以上多くの良質な経路を確保していることがわかった.

[関連発表論文]

9.3.6 脳機能ネットワーク特性に着想を得た無線センサーネットワークのトポロジー構築手法

2.1.8節再掲

9.3.7 脳機能ネットワークに着想を得たロバスト性を有する仮想ネットワーク構築手法

2.1.9節再掲