インターネットのトラヒック特性とその応用に関する研究

インターネットユーザ数の急伸やマルチメディア化によリ、インターネットプロバイダーはインフラ整備の対応に追われている。品質の高いネットワークを構築するためには、ネットワーク特性を十分に把握した上で、それに基づいたアプリケーション制御、アプリケーションシステム設計が必要になる。特に、従来のネットワーク設計手法論が単一キャリアを前提にした閉じたものであったのに対して、インターネットにおいてはオープンな環境におけるネットワーク設計論が必要になっている。インターネットTCPのフィードバック制御に基づく輻輳制御手法、インターネットの急成長などを考慮すると、ネットワーク測定とネットワーク設計のポジティブフィードバックを前提にしたネットワーク設計論が重要になる。本研究テーマでは、このような考察に基づき、以下の研究テーマに取り組んでいる。

インターネットにおけるネットワークディメンジョニングに関する研究

ネットワークが安定した通信品質を提供するためにはネットワーク特性を正確に見積もる必要がある。特に、ネットワーク設計を考える上でボトルネックとなるリンクを特定するためにはエンドホスト間のリンクの帯域推定が不可欠である。これまで、ネットワークの帯域計測ツールとしてPathcharなどが開発されてきたが、ネットワークの状態が変化することで測定結果にさまざまな誤差が含まれるために、正確な帯域推定ができないといった問題がある。そこで、論文[1]、[2]では計測を行なう際に発生しうる誤差を除去し、得られた結果に対する信頼性を考慮した帯域推定法について検討する。このために、パラメトリックやノンパラメトリック推定法を用いた推定帯域の信頼区間の導出方法を示す。また、信頼区間に基づいたパケット数の適応型制御方法について提案した。数値結果より、提案方式を使用することによってネットワークの状況に左右されにくいロバストな推定が可能になることを示した。二つの手法のうち、ノンパラメトリック推定法による方法が信頼性の高い結果を得られることがわかったが、推定に多くの時間が必要となる。その一方で、パラメトリック推定法では計測時間はかからないが、正確な値を算出するためには、リンクが安定しなくてはならないことがわかった。

[関連発表論文]
  1. 的場 一峰, 阿多 信吾, 村田 正幸, "インターネットにおける統計的手法に基づいた帯域測定," 電子情報通信学会 技術研究報告(発表予定), March 2000. [PDF]

  2. Kazumine Matoba, Shingo Ata, and Masayuki Murata, "Improving bandwidth estimation for Internet links by statistical methods," submitted to INET 2000 , January 2000. [PDF]

インターネットの遅延特性とリアルタイムアプリケーションへの応用

インターネットアプリケーションにおける重要な通信品質特性項目としてパケット転送遅延がある。特に、データ転送系サービスであるTCPにおけるタイムアウト時間や実時間アプリケーションにおけるプレイアウト時間などの設定には、パケット転送遅延分布のすその部分の特性を明らかにしておく必要がある。論文[3]では、まずパケット転送遅延の計測データを用いて、その確率分布関数によるモデル化を行っている。具体的手法としては、いくつかの確率分布関数を与え、その中からもっとも適合した分布関数を統計的手法によって選択することによって、インターネットにおける遅延特性を明らかにしている。その結果、全体の遅延時間分布についてはパレート分布がよく適合することが分かった。さらに、本報告では、ネットワークの混雑状況を考慮して時間帯ごとの特性を調べ、分布のすその部分については、特にネットワークが混雑している時にはパレート分布がもっとも適していることがわかった。一方、ネットワークが空いている時には分布のすその部分が短い対数正規分布が適合している。次に、モデル化の応用として、実時間アプリケーションにおけるプレイアウト制御に適用した。プレイアウト制御においては、プレイアウト時間を小さくするとネットワークにおける遅延時間の変動を吸収できなくなり、パケットの再生率が劣化する。一方、逆にプレイアウト時間を大きくすると再生するまでの時間が大きくなってパケット再生率は確実に高くなるが、実時間性は損なわれる。そこで、モデル化によって得られた分布をもとにしたプレイアウト制御を新たに提案し、再生率を損なうことなく、プレイアウト遅延を小さくできるような方式を明らかにしている。

[関連発表論文]
  1. 藤本 康平, "実測に基づいたインターネットにおけるパケット転送遅延のモデル化とプレイアウト制御への適用", 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2000. [PDF]

Webシステムの特性とネットワーク設計への応用に関する研究

近年、インターネットにおけるユーザ数の急伸やマルチメディア化の進展によリ、インターネットの高品質化が重要な課題になっている。Webシステムにおいてユーザに提供される品質として、ユーザのドキュメント転送要求に対する応答時間を評価するためには、ネットワークでの特性だけでなく、Webサーバやプロキシサーバの処理性能も考慮する必要がある。論文[4]、[5]、[6]では、ユーザに対するドキュメント応答時間を評価するためのWebシステムのモデル構築し、そして、極端なボトルネックを排することによって、性能の面でバランスの良いシステム構築が可能となる設計手法を提案することを目的としている。まず、Webサーバの定量的な基本特性が明らかにされWebサーバでは処理を受けるまではFIFO待ち行列に並び、ヘルパプロセスが割り当てられた後は、プロセッサシェアリングで処理されるようなサーバ内ジョブ数が有限のM/G/1/PS待ち行列によるモデル化が妥当であることを明らかにしている。次に、実験から得られたドキュメント長に対するワークデマンドに対して条件付きシステム平均遅延を明らかにする数学的近似解析手法を提案し、Webサーバモデルへの摘要の妥当性を示した。解析結果より、Webサーバにおける負荷やヘルパプロセス数がドキュメントの処理に要する時間を明らかにした。次に、キャッシュ機能を考慮したプロキシサーバの性能評価を行い、その結果、キャッシュヒット率とドキュメント長が与えられた時に、それに対するプロキシサーバにおける処理時間が定められることを示した。そして、プロキシサーバをプロセッサシェアリングとする待ち行列システムモデル化が妥当であることを明らかにした。Webサーバ、プロキシサーバのモデルを含めたWebシステムの性能評価モデルを構築し、Webシステムでのユーザから見た応答時間を指標とした評価を行った。まず、ユーザのドキュメント要求頻度とアクセス回線での遅延と容量の関係を明らかにし、次に、Webサーバの処理性能と応答時間の関係を示した。また、プロキシサーバのキャッシュヒット率がある値を超えればアクセス回線の容量が小さいにも関わらず、それがボトルネックとなるとは限らないことが示されている。また、インターネットバックボーンの高速化が直ちにユーザに対する応答時間の短縮につながらないことを示し、その原因として、ボトルネックがアクセス回線に移るためであることを定量的に示している。最後に、本研究で導入した性能評価モデルが近似解析手法によってより簡便に扱えることを検証した。WebサーバをIS待ち行列にモデル化することによって近似解析手法が適用することの妥当性が示された。

[関連発表論文]
  1. Yasuyuki Fujita, Masayuki Murata, and Hideo Miyahara, "Performance modeling and evaluation of Web systems with Proxy caching," in Proceedings of 16th International Teletraffic Congress , vol.3b, pp.1179-1188, June 1999. [PDF]

  2. 藤田 靖征, 村田 正幸, 宮原 秀夫, "プロキシサーバにおけるキャッシュ機能を考慮したWebシステムのモデル化と性能評価," 電子情報通信学会, vol.J82-B, pp.1449-1461, August 1999. [PDF]

  3. 藤田 靖征, "Performance modeling and evaluation of Web server systems with Proxy caching," 大阪大学 大学院基礎工学研究科 博士学位論文, March 2000. [PDF]